第9章 GW合宿 2日目 東峰side
でもそれは、俺が知らないだけで、黒崎はしんどいこと、いっぱい溜めこんじゃってるんじゃないか。
合宿の買い出しに行った日、家庭のことに話が及んだ時、少しだけ黒崎は表情を曇らせていた。その後だって、様子が変といえば変だった。
他の部員より傍にいる機会は多かったはずだ。
なのに気付かなかった。気付いてやれなかった。
こんなに小さな体で、彼女は何かと必死で戦っていたのに。
「あのさ、黒崎」
ゆっくり、諭すように言葉を選びながら声をかける。
「プライベートなことだから、俺が力になれることはないのかもしれないけど……。1人で、溜めこむなよ」
黒崎はじっと俺を見つめたまま、俺の言葉を待っている。
これで正しいのだろうか、自信は持てないまま、言葉を紡ぐ。
「お前はさ、いっつも一生懸命でさ。いつ見ても全力投球してるように見えるんだよね。それって凄いことだし、偉いと思う。でも、どこかで無理してるんじゃないかな、って、俺思ってたんだ。誰にも頼らずに全部一人で頑張ろうとしているように見えてさ。…しんどい時は、誰かを頼ってもいいんじゃないかな。今みたいな時、とか。」
な?と黒崎の顔を見ながら、彼女の様子を観察する。
こんな言葉でいいのだろうか。
もっと気の利いた、言葉はないだろうか。
たかが数日、顔を合わせただけのやつが何言ってんだ、と黒崎は思わないだろうか。
不安な俺の気持ちを知ってか知らずか、黒崎は力なく返事をする。
「……は、い…」
「俺に出来る事は少ないかもしれないけど…話ならいつでも聞くから。愚痴でもなんでもいいからさ。ほらよく言うだろ、話せば少しは楽になる、って」
あまりいい反応ではなかったように思えて、焦って月並みな言葉を吐く。
あぁ、本当にこういう場面で気の利いた対応が出来たなら、もっといい人生になるだろうになぁ。
されど他にいい言葉も思いつかず、俺はふにゃっと力なく笑った。
困った時に笑ってしまうのは、俺の悪い癖だ。
でも、そんな俺につられたのか黒崎もほんの少し、笑みを見せた。
内心、ほっとする。