第9章 GW合宿 2日目 東峰side
「…黒崎……大丈夫、か?」
ゆっくり俺を見上げる黒崎の目には、涙がいっぱい溜まっている。
俺は黒崎と同じ目線になろうとその場に彼女と同じようにしゃがみこむ。
「ごめん、盗み聞きする気はなかったんだけど……」
黒崎の眉根がぐっと寄って、さっと顔をそむけられた。
ああ、こんな姿見られたくなかったんだろうな。
無神経なことをしてしまったかな、俺。
「っ、すみません、今ひどい顔してるから…」
顔をそむけつつ、黒崎はそう言う。
「いや、俺こそごめん、声かけない方が良かった…よな」
これ以上傍にいる方が、黒崎にとって苦痛なんじゃないか?
そう思って、そっとその場を離れようとした。
けれど彼女は、震える小さな手で、俺のジャージの裾を掴んだ。
これはこの場を去って欲しくないという意思の表れだろうか。
一瞬、息を飲む。
俺がいたって気の利いた言葉をかけてやれるか自信が無い。
こういう時、スガや大地だったら、うまい言葉をかけてやれるだろうになぁ。
そんなことを思いながら、目の前の黒崎を見る。
目を真っ赤にさせて小さく震える黒崎。
小柄な彼女がより一層小さく見える。
気の利いた言葉はいまだ出てこないけれど、何かせずにはいられなくて、そっと彼女の背をさすった。
自分が小さな子供の頃、親によくこうやって背中をさすって慰めてもらったものだ。
同じ年頃の女の子に、こういう慰めが効くのかは分からないけれど…。
「…ありがとうございます、旭先輩」
しばらくそうしていると、落ち着きを取り戻したらしい黒崎が口を開いた。
「……いや、俺は別に何も……」
「恥ずかしい所、見られちゃいましたね」
いつものように振る舞おうとしたのだろう、黒崎がおどけたような笑顔を見せる。
けれどそれが無理矢理作った笑顔なのだということは、俺にも分かった。
それが逆に痛々しくて、胸がきゅうっと苦しくなった。
黒崎はいつも笑顔で、明るくて、一生懸命動き回ってて。
その姿に俺だけじゃなく、部員みんな元気をもらっていて。
しんどいことだってあるはずなのに、そんなの微塵も感じさせない。