第9章 GW合宿 2日目 東峰side
3年間、ともに部活で汗を流してきた2人は、東峰の歴代彼女のことについても多少なりとも関知していた。
中身はともかく、同年代にしては大人っぽく見える(老けて見えるとも言えるが)東峰は、当人の目指す『ワイルド』な風貌と長身のおかげか、多少なりともモテる男だった。
しかし、それは相手の女の子が、東峰の中身をよく知らない場合である。
今までの東峰の恋愛パターンは、相手から告白されて付き合い出すものの、外見に似つかわしくない繊細な中身に嫌気がさした相手から別れを切り出される、というものだった。
優しさのかたまりでもある東峰は、告白も別れ話も、全てあるがまま受け入れてしまう。
羨ましいようなそうでないような、微妙な東峰の恋愛を、澤村と菅原の2人は今まで見てきた。
そういったこともあって、菅原は今、目の前で初々しいカップルのような2人の姿を、微笑ましく思っている。
まだ一緒に過ごした時間は短いが、黒崎のことはとてもいい子だと思うし、見た目に反して実は気の強いところとか、芯の強いところとか、その逆をいく東峰といい具合に合っていると思う。
可愛い後輩と大事な戦友の初々しい恋を、こっそり見守って行きたいと思っていた。
だからこそ、食事の席だったり、部活の休憩時間中だったり、ちょっとした時間においても2人が何かと接点を持てるよう、こっそり気を回しているのだ。
そのおかげもあってか、今も東峰と黒崎の2人は傍から見てもいい雰囲気だ。
しかしここで焦りは禁物だ、と菅原は1人思う。
黒崎の気持ちは清水も察しているようで、旭に対して好意を持っていると確定しても間違いないだろう。
だが肝心の旭の方はどうだ。
今まで旭が付き合ってきた彼女達は、どちらかというと派手目なタイプの女子が多かった。
何でも受け入れてしまう優しさの持ち主とはいえ、別れ話をされればそれなりに落ち込んでいたことを思いだし、菅原は、旭の好きなタイプはああいう派手目な女子なのだろうか、と頭を悩ませた。
もしそうなのだとしたら、黒崎は東峰にとって恋愛の対象にはならないかもしれない。
今ああやって微笑み合っているのも、単にかわいい後輩としてしか認識していないからかもしれない。