第1章 一枚のビラ
目の前にいた声の主は驚くほど大きな人だった。
身長150センチ未満の私からすると、巨人と言っても差し支えはないだろう。
しかも長髪で顎髭までたくわえている。
一瞬身を堅くしたが、目の前の巨人はワイルドな外見とは裏腹に、物腰は異様に低いようだ。
「本当にごめん!怪我してない?!顔に当たった?!」
謝罪を繰り返す巨人の彼は心配そうに私を見ている。
「・・・あ、はい。大丈夫です。腕に当たっただけで」
「っ、いや大丈夫じゃないでしょ!腕真っ赤だし。ちょっとこっち来て!冷やさないとそれ腫れちゃうよ」
確かに少しずつジンジンしてきている気はするけれど、そんな大袈裟に騒ぐほどのことでは・・・と内心思ったものの、あまりにも目の前の巨人さんが慌てふためいているので、私は黙って彼に言われるがまま体育館へと足を踏み入れることにした。
「清水、仕事中悪いんだけど、氷どこにある?」
振り向いた清水先輩は巨人さんの陰に隠れていた私に気がついて目を丸くしていた。
「っ、黒崎さん!どうしたの、怪我?」
「俺の打ったボールが当たっちゃって」
ちらりとこちらを見やった巨人の彼はまたすまなさそうな顔をしている。本当に外見に似合わず物腰の低い人だ。
「いえ、ぼうっと突っ立ってた私が悪いんです。ごめんなさい」
「えっ、何で君が謝るのさ?!俺が悪いのに全面的に」
心底ビックリした顔で巨人の彼は私を見ていた。
「はい、これしばらく当てて冷やしておくといいよ。痛みが酷いようなら保健室行こうか?」
清水先輩からタオルにくるまった保冷剤を受け取って、ボールを受けた箇所に当てる。じんわりと冷たさが腕に広がった。冷たさのおかげか幾分痛みも和らぐ。
「大丈夫、だと思います。ありがとうございます」
「無理はしないでね。・・・今日はどうする?見学は明日以降にする?」
清水先輩にそう問われて、ハッとした。
帰ろうかと思っていたのになんだかんだで体育館の中に入ってしまった。
「見学?・・・ってことは新しいマネージャーの子・・・?」
清水先輩と私の会話を横で聞いていた巨人さんがおそるおそる尋ねてきた。
それに清水先輩がさらりと答える。