第1章 一枚のビラ
こうなった以上、とりあえず今日の放課後は体育館に顔を出すしかないだろう。
一度見学をしてしまえば、なおさら辞退しにくくなることは必至だろうが・・・かといって平然と先ほどのやりとりを無かったことにして過ごすメンタルも無く・・・
結局、隣の席のクラスメイトに声をかけたのが運の尽きだったのだ。
いやそもそも清水先輩に興味を持ったのが間違いだったのか。
もう一度手元の紙に目をやる。
綺麗に書かれた『マネージャー募集』の文字に、清水先輩の顔が浮かぶ。
人生イージーモードであろう(勝手な想像だと分かっているけど)先輩が必死に新しいマネージャーを探している。
何の取り柄も無い私でも、あの先輩を喜ばせたり出来るのかな。
なんだかそれってちょっぴり優越感?感じられそうな気がする。
・・・なんてことを一瞬考えて、ヤな性格してるな、と自分でヘコんだ。
放課後。
私の足は体育館へと向けられていた。
行ったらきっと、マネージャーとして入部することになるだろう。
引き返すなら、今しかない。
大体頼まれたら断れないって理由だけで、マネージャーになっていいものなのか。
そんな理由でマネージャーになって3年間続けられる?
自問自答している間に、自然と足が止まっていた。
今まで、何かをやりきった経験なんて、無い。
小学生の時の習い事も、中学の時の部活も、中途半端なところで投げ出した。
逃げ癖っていうやつだけ、しっかりと身に付いてしまった。
「・・・謝って断った方が、いいかな・・・」
キュ、キュ、と響くシューズの音。
男子特有の低い声。
時折ボールの弾む音。
見なくても、体育館の外にいても分かる、運動部特有のむっとする空気感。
そこに存在する自分の姿は、あまり想像できない。
いっそ黙って帰ってしまおうか。
そう思った時だった。
少しだけ開いていた体育館の扉の間から、勢いよくボールが飛び出してきた。
瞬間、本能的に顔を庇った。
ボールは勢いそのまま、顔を覆った腕に衝突した。
バチィン、と派手な音が聞こえた。
痛みを感じる前に、大きな声と大きな影が体育館から飛び出してきた。
「ごめん!大丈夫?!」
顔を覆っていた腕をゆっくりと動かし、声の主へ視線をやった。