第47章 不確かなものだから
「早く免許取って、美咲を助手席に乗せてさ。あちこち回りたいな。連れて行きたいとこ山ほどあるんだ」
嬉しそうに話す旭さんを見つめていたら、喉の奥がきゅっとしまるような感じがして、ほんの少し視界が滲んだ。
旭さんの運転する車に乗って、宮城を旅する。
それが実現したらどんなに楽しいだろう。
そう思うのに、じわじわと祖母の影が頭の隅にちらつき始める。
旭さんの言う明るい未来だけを見ればいいのに、どうしても祖母のことが頭から離れない。
「美咲?」
「あ、そうですね! 色んなところ回ってみたいです」
自分でも取ってつけたような返事だと思った。
必死に取り繕おうとする私に、旭さんも気が付いたみたいだった。
笑みを浮かべようとして次第にひきつっていく私を見て、旭さんの目が寂しそうな色に変わっていった。
そんな顔、させたくないのに。
「…美咲はさ……未来の話をするの、怖い?」
ズバリ言い当てられて、言葉に詰まる。
肯定ととられても仕方なかった。
何も言えずに俯いてしまう。
「どうして怖いの? 」
また答えられなかった。
祖母の事があるにしても、旭さんとの未来を描けないでいるのは、ひとえに私が旭さんの事を信用していないからだと気が付いてしまったのだ。
環境が変われば、旭さんでも心変わりするのではないかと思ってしまっている。
ここまで手を差し伸べて支えてくれる優しい人を、心から信用出来ないでいるなんて、なんて酷い人間なのだろう。
何を口にしても、旭さんを傷つけてしまう。
こんな態度をとってしまった時点でもう遅いかもしれないけれど。
「お祖母さんのことがあるから?」
俯いたまま、頷く。
そっか、と旭さんが小さく呟いた。
どんな顔をしていいのか分からず地面をじっと見つめる。
旭さんの声音は怒ってる感じでも、悲しんでる感じでもなかった。
ただ「そうなんだ」と受け止めているだけのようだった。
「確かになぁ。あの人がこのまま俺との関係を許してくれるとは思えないもんな」
祖母との約束で得られたのは、一年だけの自由。
来年の今頃はどう過ごしているのか分からない。
今みたいに自由に旭さんと会うことが出来るのか。
連絡をとれるのかすら、定かじゃない。
唯々諾々と従いたくはない。けれど、東京へ戻されたらきっと自由はなくなる。