第47章 不確かなものだから
「この祭りの間だけ、七夕飾りが飾ってあるんだ」
今しか見られないんだよ、と旭さんは微笑む。
暗がりではあるもののすぐそばにいるから表情もよく見える。
人気の観光地なのか、お祭りの日だからか、人が多いのもあって自然と旭さんとの距離が近くなっていた。
旭さんに連れられて門をくぐると、また階段が現れた。
「ごめん、階段多かったね。しんどくない?」
「平気ですよ」
「もう少しだから」
また旭さんに支えられてひとつひとつ階段を上がる。
先ほどより段数は少なく、すぐに登り切った。
すると大きな屋根付きの門が見え、その奥に明かりに照らされた煌びやかな建物が目に映った。
黒地の門には金の飾りがつけられ、朱色の梁には細やかな模様が描かれたり彫られたりしていて、ところどころに使われている明るい若草色が目にも鮮やかだ。
霊廟──ひらたく言えばお墓だけれど、目の前にあるものは豪奢な建物で、陰鬱な雰囲気は全く無かった。
「七夕まつりの時はライトアップされるんだ。普段はこういうの、ないからさ。どうしても見せたくて…でもいっぱい歩かせちゃってごめん……」
申し訳なさそうに頭を下げる旭さんに、大きく首を振って見せる。
きっと色々考えてくれて、ここに連れて来てくれたんだって分かるから。
ちょっとだけ足は痛かったけれど、そういうのも気にならないくらい、旭さんの気持ちが嬉しかった。
「私、旭さんに連れて来てもらえて嬉しいです。旭さんが私に見せたい、って思ってくれたのも嬉しいし」
「そう言ってくれるとホッとするよ。…美咲は春にこっちに来たばっかだろ。だから俺が知ってる宮城のおすすめの場所に連れて行ってあげたくてさ。
二人の思い出作りたいってのもあるけど、ここのこと色々知ってほしいなって。美咲にとってここが、俺と同じ“ふるさと”になったらいいなぁって思ったんだ」
ふにゃっと微笑む旭さんに、胸が音をたてて静かに痛んだ。
でも嫌な痛みじゃない。これは幸福な痛みだ。
今日一日だけで何度味わったかしれない、幸せの証拠。