第47章 不確かなものだから
そんな障害を乗り越えてまで、旭さんは私との付き合いを続けようとしてくれるだろうか。
そこまでして付き合いを続ける価値が、自分にあるとは、思えない。
「でもさ。俺、諦めるつもりないから」
力強い声音を感じ取った時には、旭さんは私の肩をぐっとつかんでいた。
顔を上げた先の旭さんは真剣な目をしている。
「誰に反対されても、どんな事があっても。俺は美咲との未来を手放すつもりはないよ」
「…どうして? どうしてそんなに、私を」
その先の言葉を口に出来なかった。
溢れ出てくる涙を拭うのに精一杯だった。
どうしてそんなに、私を想ってくれるのか。
私は、自分のことでいっぱいで、旭さんの心を信じきれないでいるのに。
「好きだからだよ。どうしようもなく、好きだから」
降り注ぐ優しさにあふれた声。
私の頬を伝う涙を、旭さんの指先がそっと拭う。
そんな風に扱ってもらう資格がない気がして、顔をそむけた。
「ごめんなさい……旭さんがこんなに大事に想ってくれてるのに……未来が怖いなんて。酷い人間だって自覚してます。旭さんのこと信用してないって言ってるようなものだって、分かってます。でも、どうしても怖いんです。
これから先、旭さんが卒業して、私達の関係が変わっていく中で…今と同じようにはいられない中で、今みたいに一緒にいられるのかなって。
祖母の事とか、家の事とか、私みたいな煩わしいことのない良い人なんていっぱいいるだろうし。旭さんの事好きになる人だってきっとたくさんいるから…」
最低な事を口にした。
どうしようもなく好きなのだと告げてくれた相手に、なんてことを言っているのだろう。
嫌われても仕方のないことを口にした。
馬鹿正直に伝えなくても良かったと思い始めても、もう遅い。
「…心は、目に見えないからなぁ」
旭さんは怒らなかった。
嫌悪感すら抱いていないようだった。
悲しんだり、私をなじったりもしなかった。
「目に見えない、不確かなものだよな。心って。
今の俺に出来るのは、美咲が安心するまで言葉と態度で俺の気持ちを伝えることくらいだけど……。
不安にさせないようにずっと言い続けるよ、俺。美咲のことが大好きだって」