第47章 不確かなものだから
すぐそばに旭さんの温もりを感じる。
こんなに幸せでいいのだろうかと、ふと不安になる。
楽しいことだけ考えていればいいのに、また何か悪いことが起きるのではないかと怖くなる。
幸せなのに怖いなんて、おかしな話だ。
「…来年も、再来年も。その次の、その次の次の年も。こうやって二人で花火見られたらいいな」
来年も、再来年も。
そのずっと先まで旭さんは考えてくれている。
それはすごく嬉しいことなのに、素直に喜べない自分がいる。
来年、私は東京に戻る。
旭さんは、卒業後の進路どうするのか分からないけれど。今と同じようにいられないのは確かだ。
今まで以上に祖母の締め付けは厳しくなるだろうし、環境が変わったら旭さんにも新しい出会いが訪れるだろう。
人の心は、移ろうもの。
ましてや恋心なんて。
お互いの気持ちがどうなっていくのかなんて、今の私には想像出来ない。
両想いになって幸せな今だから余計に考えてしまう。
気持ちが変わってしまう時が、いつかくるのではないかと。
奔放な恋をして生きている母を近くで見ていたからか、母の血を引く私も同じような道を辿ってしまうのではないかと不安になる。
そんな風に後ろ向きに考えずに、素直に旭さんの言葉に同意すればいいだけなのに、どうしても考えずにはいられない。
母に永遠の愛の言葉を囁いた男性達も、数年後には心変わりして消えていった。
“永遠”や“絶対”なんて言葉が、いかに不確実なものであるか間近で見ているだけに……旭さんの言葉に頷けない。
黙ったままの私を、旭さんはどう思っているのだろう。
何も言えずにいた私を救ったのは、怒涛のように打ち上げられる花火だった。
バリバリと大きな音と光で、旭さんの意識を引き付ける。
終了時間が近づくにつれどんどんと打ち上げられる花火を、二人とも無言で見つめていた。
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「あっ、東峰!」
「道宮」
「こんな人ごみの中で会うとは思わなかった」
「ホントだなぁ」
花火が終わって駅に向かう途中、道宮さんに出会った。
道宮さんは女子バレー部の三年生と来ていたようで、見知った顔がいくつか並んでいる。
「東峰、一人? なワケないよね」