第47章 不確かなものだから
「お父さんかお母さんは?」
そう尋ねると、男の子はそれまでこらえていた涙をぼろぼろとこぼしだした。
ぐっとかみしめていた唇もしだいに緩んでいき、わんわん泣き出してしまった。
「もしかして迷子かな」
「そうみたいですね」
迷子をこのまま放っておくわけにはいかない。
顔を見合わせた私達は、同じことを考えていた。
「旭さん、列抜けてもいいですか」
「うん。救護のとこ連れて行ってあげよう」
涙の止まらない男の子を連れて、行列から抜ける。
旭さんが抱きかかえると男の子は大人しく旭さんの腕の中におさまった。涙はまだ出っぱなしだったけれど、旭さんが自分を助けようとしてくれているのは理解したらしい。
ぎゅっとTシャツを握りしめて、旭さんにしがみついていた。
念のため、近くに家族がいないか声かけしてみたものの、反応は無かった。
男の子に尋ねてみても、どのあたりではぐれたのか不明だった。
「大丈夫だよ。私達がついてるから。もう一人じゃないからね」
不安げに旭さんのシャツを握る男の子を励まそうと声をかける。
大勢の人の中で、迷子になってしまってどれほど心細かっただろう。今も両親の姿を探して、落ち着かない様子で行き交う人々を目で追う男の子の姿に胸が締め付けられる。
男の子は私の顔を無言で見るだけだった。どんな言葉も、今は届かないのかもしれない。
他人の私ではこの子の不安を取り除いてあげられないのかな。彼が求めているのは、何よりも家族だろうから。
家族。
ふと母のことが頭に浮かぶ。
ぐ、と喉元を締め付けられるような嫌な閉塞感が襲ってくる。
今は男の子のことだけ、考えなきゃ。
「…かきごおり」
ふいに、男の子がつぶやいた。
男の子の目線の先には、かき氷の屋台がある。そういえば、旭さんにぶつかって持っていたかき氷は全部道にこぼれてしまっていた。こぼれた量からして、まだほとんど手をつけていなかったように思う。
「かき氷食べたいの?」
尋ねると男の子はこくんと頷いた。
旭さんと視線を交わして、私達はかき氷の屋台に向かった。
「どの味にする?」
「…いいの?」
食べたいと意思表示したものの、買ってもらえるとは思っていなかったのか、男の子は遠慮がちにそう言った。
「うん。俺がぶつかったから、食べられなくなっちゃったしね」
「…ありがとう」