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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第47章 不確かなものだから


「旭さん、出店見に行きましょう」
「気分はもう大丈夫?」

まだすこし心配げな顔の旭さんに、今度はとびっきりの笑顔で応える。

「大丈夫です! 牛タン食べたいです!」
「ふはっ、それだけ元気な声出れば大丈夫だな」

繋いだ手は温かい。
さっきまでの不安も恐怖も、鳴りを潜めている。
何が原因か分からないのは気になったけれど、目の前の楽しいことに集中しよう。
歩行者天国になっている大通りの両脇に、所狭しと出店が並んでいる。
たこ焼き、焼きそば、クレープ…流行りものが目立つように置いてあるくじ引き、色とりどりのフルーツが並ぶフルーツ飴。
牛タンに行きつくまでに目移りしてしまう。

ようやくお目当ての牛タンの串を売っているお店を見つけ、列に並ぶ。
毎年長蛇の列が出来る人気のお店らしく、店の前では整列を呼びかける店員さんまでいた。
旭さんと話しながら順番を待っていると、横を通りすがった男の子が旭さんにぶつかって転んだ。
転んだ拍子に手に持っていたかき氷が地面にべしゃりと落ちてしまった。
転んだことにびっくりしたのか、男の子は呆然と地面に溶けていくかき氷を見つめている。

「大丈夫?怪我はない?」

旭さんがしゃがみ込むと、男の子はぎゅっと口を引き結んだ。
目の端に涙の粒がたまっていくのを見て、旭さんがおろおろしだす。
怖がらせているつもりはないのに、子供からすると威圧感があるのだろう。
男の子が泣き出す前に、一緒にしゃがみこんで言葉をかけた。

「どこか痛いところある? 立てるかな?」

男の子は首を振って立ち上がった。
涙を必死にこらえようと、引き結んだ口はますますかたくなっていた。
甚兵衛についた土を払っていると、膝小僧を擦りむいているのが目に入った。
滲んだ血に土が混じっている。手提げの中に絆創膏が入っているけれど、一度水で傷口を洗った方がいい。
そこまで考えて、ふと男の子の周囲に大人の姿がないことに気が付いた。
あたりはたくさんの人で溢れかえっていたけれど、誰も男の子に声をかけることなく通り過ぎてゆく。
男の子の年齢は五歳かそこらに見えた。さすがにこのくらいの年の子を一人でこんな大きなお祭りに行かせることはないだろう。
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