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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第47章 不確かなものだから



ただただ、怖い、という気持ちだけが全身に広がっていく。
恐怖に完全に飲み込まれそうになった私の背中を、旭さんがゆっくりとさすってくれた。
言葉は無く、ただ大きな手のひらが背中をさする。
大丈夫だよと言外に伝えるその手の温もりに、いつの間にか恐怖心はどこかへ隠れてしまっていた。

「ありがとうございます」
「落ち着いた?」
「はい……ごめんなさい、私」
「謝るのは無し。美咲は何も悪いことしてないんだから」
「でも」

せっかくのデートなのに。訳の分からない態度をとって旭さんを困らせてしまった。
さっきから楽しい空気を壊してしまっている。申し訳なさでいっぱいだった。

「…俺はね、美咲と一緒にいられるだけで幸せなんだよ。美咲がしんどい時はそばで支えたいし、守りたい。それが出来るってだけで嬉しいんだ。だから謝らないで」

今日の私とのデートは、きっと理想のデートじゃない。
もっとはしゃげて、笑顔ばっかりのデートが一番に決まっている。
それでも一切責めずに黙って隣で支えてくれる旭さん。
こんな優しい、心の大きな人ほかにいるかな。
優しさに甘えてばかりじゃだめだけど、その大きな体に寄りかかっても大丈夫なのだと今まで何度も示してくれた旭さんの事を、今日また更に好きになった。

「旭さん、本当に大好きです。いつも、どんな私も受け止めてくれてありがとうございます」

背中をさすっていた手が止まる。
みるみるうちに耳まで真っ赤になった旭さんを見て、ああ可愛い人だなぁと思う。
お互いに真っ直ぐに気持ちを届けて、受け取って。
気持ちが通い合うことがこんなにも心を満たしてくれるなんて。
旭さんに出会えなければ、気付けなかった。

「俺も大好きだよ。そうやって思ってること言葉にしてくれるようになって嬉しい。ありがとう」

旭さんの大きな手のひらが、今度は頭をゆっくりと撫でた。
少し潤んで赤みを帯びた目と下がってゆく眉尻に、さらなる愛しさを覚える。
“好き”という感情が溢れて仕方ない。きっとそれは目の前の旭さんも同じ。
幸せだと幾度も口にして、その味をかみしめてしまうのはこれまで不安ばかり抱えて生きてきたからだろうか。
願わくばこの幸せがいつまでも続くようにと祈ってしまうのも、恋に落ちた者の宿命かもしれない。
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