第47章 不確かなものだから
「そうそう、今日の花火大会結構大きいやつだから、出店もいっぱい出るんだよ。花火始まる前に何か食べようか」
「いいですね。何食べようかなぁ」
「焼きそば、カレー、あっ牛タンもあるよ? あとずんだ餅とか」
「宮城名物! そう言われてみれば私まだ食べたことないです、牛タン」
「おし! じゃあ牛タンは絶対食べよ」
履きなれない下駄で歩くのにも少し慣れてきたころ、出店の並ぶ公園が見えてきた。
このあたりになると道は人で溢れかえっていた。
はぐれないように握る手に力が入る。
「大丈夫だよ。絶対離さないから」
あんまり強く握ったからか、旭さんは笑って私を見る。
もしはぐれても、背の高い旭さんなら人ごみの中でも見つけやすいと思うし、連絡の取りようだってあるから完全に迷子になることはないんだけれど。
旭さんにずっと触れていたいとかそういう気持ちの前に、なんだか漠然とした不安がつきまとって仕方がなかった。
この手を離したら一人になってしまいそうで、怖い。
一人になったら何かよくない事が起こりそうで、怖かった。
──小さな子供じゃあるまいし、なぜそこまで自分が恐怖心を感じるのか不思議だった。
じわ、と嫌な汗が背中を伝う。
この感覚、初めてじゃない。
前にもどこかで感じたことがある。
だけど、それがいつのことだったかは思い出せない。
「美咲? 大丈夫?」
旭さんに声をかけられて、ハッとする。
大丈夫ですと答える自分の声はあまりにも小さく、余計に旭さんを心配させることになってしまった。
「気分悪くなった? 人に酔ったのかな。ちょっと離れたところで休もう」
「…ごめんなさい」
「謝ることないよ。暑いし、人多いから気疲れもするだろうしさ。ちょっと待ってて、飲み物買ってくるから」
旭さんの手が離れていく。
先ほどまであった温もりが消えてしまう。
瞬間、ゾッと背筋が寒くなり、また言いようのない恐怖が襲ってくる。
思わず旭さんのTシャツの裾をつかんでいた。
「一人に、しないで」
震える声でそう訴えると、旭さんは黙ってそばに腰を下ろした。
何か変だと自分でも思うのに、その違和感の正体をうまく説明できない。