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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第47章 不確かなものだから


「ううん。素直に話してくれて嬉しかった。……ヤキモチ焼いてるの、可愛いと思ったし」
「っ、でも子供じみてて恥ずかしいです」
「俺だって同じだよ。スガや西谷が美咲ちゃんって呼ぶたびに、なんでそんなに簡単に名前呼んじゃうんだよって思った事あったし。…俺がこんなこと言ったら引く?」

ぶんぶんと大きく首を振る。
先輩がそんな風に思ってたなんて知らなかった。

「引きません。むしろその逆です」
「良かった。…じゃあ、さ。その、名前で呼んでもいいかな」
「はい! ぜひ呼んでください」
「はは、そんなに嬉しそうな顔されるとちょっと照れるな……」

すぅ、と深呼吸を二つ。
試合の時みたいな真剣な顔をして、旭先輩の口がゆっくりと私の名を呼んだ。

「……美咲」

旭先輩の唇が私の名を象って、音となって広がってゆく。
胸に染み入る先輩の声をぎゅっと閉じ込めてしまいたい。
きっとこれから何度も呼ばれることになる。
だけど、今日旭先輩が私の名を呼んでくれたことは、一生忘れることの出来ない宝物だ。

「美咲も呼んでくれないか。旭、って。…先輩は、無しで」

旭先輩が耳まで真っ赤になってそう言うから、私もつられて体中の熱が顔に集まっていった。
私は最初から、旭先輩って名前で呼んでいたから今まであんまり意識してこなかったけれど。
“先輩”をとったら、なんだか旭先輩の輪郭がより鮮明になる気がして、気恥ずかしくなる。
私と先輩の垣根がなくなる感じ。境界線が消えていくような、そういう感じ。
付き合うって、そういうことなのかな。繋がりがより深くなっていく。くすぐったくて、熱い。

旭先輩の真似をして、深呼吸を二回した。
いざ“名前”を呼ぶとなると緊張する。
口にする音は同じでも、気持ちは今までとは全く違う。
愛しさをこめて、先輩の名を呼んだ。

「旭……さん」

呼び捨ては出来なかった。私にはまだハードルが高い。
どうしても“先輩”だっていう意識が抜けない。
それでも先輩は満足だったみたいで、ふにゃりと笑った。

「なんか、いいな。名前呼ぶのも、呼ばれるのも」

照れながら頭をかく旭さんが可愛くて、握った手をぎゅっとする。同じように旭さんは握り返してくれる。

こんな些細な事でさえ嬉しくなってしまう。
お互いの存在がこれほどまでに幸せを運んでくれるなんて。



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