第47章 不確かなものだから
母親代わりなところもあったからか、姉は私のことを心配してくれているのだろう。
姉自身色んな人と付き合っていて、痛い思いもしてきたと言っていたことがあったから余計に心配するのかもしれない。
旭先輩が無理矢理先に進もうとするとか、考えられないけれど。
「嫌われたくないからって流されちゃダメよ。そこで愛想つかすような男なら、こっちからお断りしなきゃ駄目だからね」
旭くんならその心配はなさそうだけど、と姉は付け加えてぎゅっと腰ひもを結んだ。
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「お待たせしました」
旭先輩は玄関先で待っていてくれていた。
顔を合わせてもぽかんとしたまま何も言わない先輩に、何か変なところでもあるのかと不安になった。
手鏡でメイクを確認するものの、特におかしなところはない。
普段こんなにばっちりメイクすることがないから、似合わなかったのだろうか。こういうメイクはあまり好みじゃなかったんだろうか。
不安から小さな声で「どこか変ですか?」と尋ねていた。
「変じゃない。変じゃないよ。じゃなくて、さ…可愛いすぎてどうしようって思って」
「!」
「あっ、いつも可愛いよ?! 今日はほら、浴衣着てるし髪の毛とかもいつもと違うしさ」
「ありがとう、ございます」
お互い顔が真っ赤だった。
褒められて嬉しいけれど、面と向かって言われると恥ずかしい。
じゃあ行こうか、と差し出された大きな手はとても熱かった。
「俺も浴衣着てきたら良かったかな」
「先輩も浴衣持ってるんですか?」
「父親のだけどね。来年は一緒に浴衣着て行こう」
「そうですね…」
来年の夏は、ここにはいない。
いつか旭先輩にも話さなくちゃいけない。
だけど口にするのが怖い。
来年になったら、旭先輩は高校生じゃなくなって私と住む場所も違って、どんどん遠くなってしまう。
離れてしまったら、先輩の気持ちも離れていってしまうんじゃないかって怖くなる。
それでも旭先輩は笑顔で未来の話を口にする。
この人なら、何でも受け止めると言ってくれた旭先輩なら。
たとえ環境が変わったり距離が離れたとしても、変わらずいてくれるだろうか。
「どうかした?」
「えっ、いいえ! 何でもないです」
でもやっぱりまだ言えない。来年にはいなくなるって。
もうすぐ春高の一次予選だし、変なこと言ってまた面倒をかけたくない。