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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第46章 おかえり



「俺はさ、美咲が聞いてくれて良かったと思う。今まで、お互い思い込みですれ違うことも多かっただろ? だからさ、ちゃんとこうやってお互い思ってること話そう」

真っ直ぐな旭先輩の眼差しに、こくんと頷いて返す。
私達が今まで何度かすれ違ってきたのは、言葉が足りなかったから。
言葉を交わしてもお互いの気持ちが全部伝わるわけじゃないかもしれないけれど、少なくとも前みたいに誤解することは減っていくだろう。

「そうですね。ちゃんと、言葉にしていきましょう」
「…だよな。言葉にしないとな」

言って旭先輩は何度か咳ばらいをした。
何か言いたげな目だ。でもどこか言いにくそうな。
先輩の口から出てくる言葉に、少しだけこわくなった。
何を言われるんだろう。そんな私の不安をよそに、旭先輩はぎゅっと目をつむってこう言った。

「す、好きだよ」

突然そんなことを言われて、私はきょとんとしてしまった。
目をつむったままの先輩の顔がみるみるうちに赤くなり、ぎゅっと唇をかみしめているところを見ると、相当に勇気を出してその言葉を口に出してくれたのだと分かった。

なんで今のタイミングでそんな言葉を口にしたのか、なんてどうでもよくて。
「好き」の言葉をかみしめながら、「私も好きです」と応えると、旭先輩は嬉しそうに笑ってくれた。

「手、繋いでもいい?」
「もちろんです」

今日の旭先輩は少しだけ大胆だった。
大きなごつごつした手が、私の手を優しく包む。
ずっとこうやって歩きたいと思っていた夢がようやく叶った嬉しさに舞い上がりそうになっていた。
だけどちょっと気恥しくて、足元を見ながら歩く。顔を上げたら先輩と目が合いそうだったから。

他愛もない会話をしながら家への帰り道を歩いていると、誰かが横を通り過ぎていった。
その人が通り過ぎた後に残った香りは、とても馴染みのある香りだった。
思わず振り向いて、呼び止めた。

「お母さん?」

けれどその人は歩みを止めず、遠ざかっていく。
旭先輩と繋いでいた手はいつの間にか離れていて、私はその人の背中を追った。
母と背格好のよく似たその人の肩をたたく。
振り返った人は驚いた顔で私を見ていた。

「あ……ごめんなさい、人違いでした」

振り返った女性は、母とは似ても似つかない人だった。

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