第46章 おかえり
帰りのバスを待つ間、私達はお互い黙ったままだった。
多分、言いたいことは互いの胸の内にいくつかあったと思うけれど、それを口に出すのはなかなか勇気がいる。
沈黙に耐えかねたところで、タイミングよくメッセージを知らせるメロディがスマホから流れた。
取り出したスマホの画面には、衛輔くんの名前が表示されていた。
内容は、無事に宮城に着いたかの確認だ。
心配性な衛輔くんらしい。
放っておくと電話をかけてきそうな気がしたから、無事に着いて今からバスに乗るところだと返信を送った。
ふと、視線を感じて顔をあげると、旭先輩と目が合った。
「っ、ごめん、盗み見するつもりじゃ」
旭先輩は優しい。
だからきっと、不平や不満があっても、私にハッキリとは言わないと思う。
付き合いだしたばかりの今だったら、なおさら先輩は遠慮して我慢するんじゃないかと、私は思った。
「あの、旭先輩。先輩は、私が衛…夜久くんと連絡取り合うの嫌だったりしますか? 私、付き合うとかその、初めてだから、彼氏以外の男の子と連絡取る事がいいのか悪いのか、判断がつかなくて……先輩が嫌だったら、私、連絡取らないようにします」
「…俺、そんなに嫉妬深そうに見える、かな…あ、いやスマホのぞいてた奴が言えたことじゃないけど」
申し訳なさそうに頭をかく旭先輩。
直接先輩に聞くのは間違っていただろうか。
変に気を遣わせてしまったようで、私も申し訳ない顔になった。
「俺、黒崎の事も夜久の事も信用してる。だから2人が連絡取り合っても、そのことで2人の事をどうこう思ったりはしないよ。……そう、頭では思ってる。だけど心の中では、ほんのちょっぴり気になるというか……」
先ほどのスマホを覗き見ていたことを思い出してか、旭先輩の声はだんだんと小さく気弱になっていった。
感情は、複雑だ。
きっぱりと割り切れるものじゃないことは、私自身がよく分かっている。
私が夜久くんとの連絡を絶ち切れないでいるのと同じように、旭先輩も気持ちがぐらついているのだろう。
「気になるけど、でもそれで2人が連絡取らなくなるのも嫌だし……。悪い、こういう時にハッキリしないと男らしくないよな」
「いいえ、旭先輩らしいなって思いますよ。私の方こそごめんなさい、こういう事面と向かって聞くことじゃなかったかもしれません」