第45章 【過去編】 あの頃のぼくらは
「とにかく、大人に伝えないと」
言って俺達は「救護」と書かれたテントに駆け込んだ。
わぁわぁと騒ぐ俺達の話をよく飲み込めないのか、テントにいたおっちゃん達は「どうした」「落ち着け」というばかり。
ようやくの思いで事情を伝えると、おっちゃん達の顔が真剣なものになり、迷子の放送がかけられることになった。
「衛輔、美咲ちゃんとどこではぐれたの?!」
「えっと、盆踊りの輪の中……」
放送を聞いて駆け付けた母に詰め寄られ、たじたじになって俺と義明は質問に答えた。
祭りの手伝いをしていた母は、頭に三角巾を巻いたまま、俺達を残して美咲ちゃんを探しに暗がりへと消えていった。
その場に残された俺達も、美咲ちゃんを探し回った。
けれどどれだけ探しても、美咲ちゃんの姿は見つからない。
「……もしかして、家に帰ってるんじゃない?」
「一人で、か?」
「分かんないけど。こんだけ探していないんだし」
「行ってみっか」
義明と二人、今度は家へと駆けだす。
後から考えれば、祭りの会場にいなければ、誰かに連れ去られたと考えるのが普通かもしれない。
ただ結果として、俺と義明の判断は正しかったことになる。
俺の家は鍵がかかっていて、入れなかった。
けれど美咲ちゃんの家は、玄関の鍵が開いていた。
玄関には美咲ちゃんの履いていた草履と、汚れてくたびれたスニーカーが脱ぎ散らかされている。
──美咲ちゃん以外に、誰かがいる。
義明と顔を見合わせて、お互い口元に指をあてた。
ぞわぞわと嫌な感じが背中を這う。
変な緊張と恐怖が、俺達二人を襲った。
家の中はしん、としている。
それが余計に怖かった。
子供ながらに異変を感じていたのか、俺と義明は物音をたてないように細心の注意を払って家の中に足を踏み入れた。
廊下からリビングへ向かうと、リビングに続くドアが少しだけ開いていた。
そこから外の街灯の光だろうか、月明かりだろうか。
白く冷たい光が漏れ出ている。
廊下に静かに伸びるその光を踏みつけながら、ゆっくりとリビングのドアを開けた。
暗い部屋の中で、何かがゴソゴソと動いている。
じっと目をこらすと、その動く影がリビングのソファに向かって何やらボソボソと話しかけているようだった。