第45章 【過去編】 あの頃のぼくらは
何度も何度も頭を下げる義明の母さんに、うちの母さんは大丈夫よ、と声をかける。
相談にのりますよ、と母さんが言うと、義明の母さんは泣き崩れてしまった。
大人があんなに泣くのを見たのは初めてだった。
義明は、無表情でその場に立ち尽くしていた。
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それから、義明と美咲ちゃんがちょくちょく家に遊びに来るようになった。
遊びに来る、というよりも、一緒に過ごす、といった方が正しいかもしれない。
一緒に夕飯を食べたり、お風呂に入ったり、少しずつ俺の家に二人がいる時間が長くなっていった。
父さんは始めはあまりいい顔をしていなかったけど、母さんの気迫に負けて、二人が家にいることに何も言わなかった。
始めのうちは、義明も美咲ちゃんもぎこちなくて居心地悪そうにしていたけど、少しずつ俺の家で過ごすことに慣れてきたようで、みんなでゲームをしたり、出かけたりするようになった。
しばらくすると、義明の暴力もほぼなくなり、美咲ちゃんが変な笑顔を見せることも少なくなった。
ある時から、美咲ちゃんが俺をこう呼びだした。
「やくのおにいちゃん」
俺はそれに笑顔で応える。
一人っ子だったから、急に出来た妹が可愛かった。
「家族が増えたみたいね」
俺達を見て、母さんがそう言って笑った。