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【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第45章 【過去編】 あの頃のぼくらは



だけど、今目の前で行われているのは、その遊びを模したイジメにしか見えなかった。

女の子達はジャンケンするそぶりも見せず、ただ美咲ちゃんにだけランドセルを運ばせているらしかった。

「美咲ちゃん、大丈夫?」

俺はいつも、美咲ちゃんに「大丈夫?」と問いかけているような気がする。

…そして決まって答えはこうだ。

「…だいじょうぶだよ」

そしてまた、決まって美咲ちゃんは、にへらっと笑う。


この時の俺にはもう分かっていた。

美咲ちゃんがこうやって笑う時は、嘘をついているってことを。

大丈夫なんかじゃない。

本当はその反対。それを誤魔化すように、へらへらと笑うんだ。

なんで大丈夫じゃないのに、大丈夫なんて嘘つくんだよ。

なんでしんどいくせに、へらへら笑うんだよ。


「…なんでいつも、そうやってへらへら笑うの? 美咲ちゃん、嫌がらせされてるって、分かってないの?」


何故か、俺はイラついていた。
嘘をつくのが許せなかったんだろうか。
辛いのに頼ってくれないのが嫌だったんだろうか。

よく分からないけれど、俺はイラついてしまっていて、それをそのまま美咲ちゃんにぶつけてしまっていた。

「……ごめん、なさい」

何故か美咲ちゃんは謝って、またへらりと笑った。

謝る意味も分からなかったし、俺がイラついてるのに気づいてたのに笑う意味も分からなかった。

奇妙な笑みを浮かべたまま、美咲ちゃんは遠くの女の子達を追って、よたよたとランドセルを抱えて歩いて行った。

女の子達は時折チラチラと美咲ちゃんの方を振り返りながら、それでも決して距離を詰められまいと、足早に遠くへ行こうとする。

「まって」と小さな声で美咲ちゃんが言うのを見て、女の子達はクスクスと笑っていた。

見ていて気分が悪くて、美咲ちゃんの抱えているランドセルを持ってあげようとした時だった。

俺と美咲ちゃんの横を、黒い影が猛スピードですり抜けていった。

風がぶあっと吹いて、砂ぼこりが舞い上がった。

「きゃああ!!」
「やめてー!!」

女の子達から悲鳴が上がる。
黒い影が無防備な女の子達を殴ったり蹴ったりしているのが見えた。

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