第45章 【過去編】 あの頃のぼくらは
俺は正直、関わり合いにはなりたくなかった。
だっていくらこっちが歩み寄ろうとしても、向こうはこれっぽっちも仲良くしようと思ってないんだ。
それどころか近づくものは皆敵だ、と言わんばかりの態度。
それなのに母さんときたら、何かと義明達を気にかけるように、なんて言ってくるものだから、この時の俺は学校に行くのも、家にいるのも億劫になっていた。
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義明達が引っ越してきてから、一ヶ月くらい経った頃。
いつものように気乗りしない登校班で登校している時だった。
俺の蹴った小石が、前を行く義明の足にぶつかってしまった。
「ごめん」
「……チッ……」
義明はちょっとだけ振り返って、舌打ちをした。
けれどそれ以上は何も言わず、すぐ前に向き直って、歩き出した。
少し歩いたところで、後ろから衝撃を受けた。
俺の後ろを歩いていた美咲ちゃんが転びかけて、俺のランドセルにしがみつこうとしたみたいだった。
そのはずみで、俺は前のめりになり、義明のランドセルにダイブしてしまった。
義明は急に後ろから押されて、そのまま転んでしまった。
「ってぇなぁ!!! お前、さっきからワザとだろ?!」
膝から血を流した義明が、すごい形相でつかみかかってきた。
すでに右手はグーの形になっていて、今にもパンチがとんできそうだった。
反射的に目をつぶる。
鈍い音がして、小さなうめき声が聞こえた。
うめき声は自分のものじゃないし、痛みも感じなかったから、不思議に思って目を開けると、俺の目の前に美咲ちゃんの頭があった。
「バカ美咲!! しゃしゃってくんじゃねぇよ!!」
妹にも容赦のない罵声を浴びせながらも、さすがに手を出すのはためらわれたのか、義明はそれ以上拳を振り上げることは無かった。
「美咲ちゃん、大丈夫?」
「…うん、だいじょうぶだよ」
にへら、と美咲ちゃんが笑う。
あ。まただ。
前も見た、あの変な笑顔。
痛いはずなのに、そうと言わない、嘘の笑顔。
「……なんで、笑うの。ホントは痛いんでしょ。なのに、なんで笑うの」
不気味というか、なんというか。
理解が出来なくて、気味が悪い感じがする。
笑ってるはずなのに、そう見えなくて、なんか変な感じがする。