第44章 久しぶりの団欒
困った顔をするばかりの守に、真由美はまた盛大にため息をついた。
(全く頼りにならない旦那なんだから……)
内心そう思ったものの、口に出せば余計に空気が悪くなることを予想して、真由美はぐっとこらえた。
「あ、そうだ。名刺をもらっていたんだった!」
「もう早く言ってよ! 貸してちょうだい、私が連絡するわ」
名刺をもらったことすら忘れているなんて、と半ば呆れつつ、真由美は守から名刺をひったくると、携帯片手にリビングから出て行ってしまった。
帰ってきてからこちら、ずっと怒っている顔の妻の背中を見送り、守はふぅと小さく息を吐いて、ソファに腰を下ろす。
「なぁ、こんなことするのってもしかして、お祖母さんか?」
衛輔がはっきりとそう聞くと、美咲は少しだけ顔を曇らせつつ、こくりと頷いた。
「はぁ……めちゃくちゃだな……金持ちの考えることって分かんねぇ」
「しかしすごいねぇ。三百万もポンと渡してくるなんて」
しげしげと箱の中の大金を眺める守に、衛輔も美咲も目を丸くした。
「……母さんが怒るのも、俺、分かる気がする……」
「え?」
のんびりした気質の父の発言に、衛輔は母の気苦労を垣間見た気がした。
「……ふふっ、でもおじさんらしくていいかも」
どこか抜けた感のある守の存在によって、美咲の心にたったさざ波は幾分か落ち着いてきていた。
美咲のせいではない、といくら言われても、夜久家に波風をたてていることにかわりはない。
そんな風に思い詰めてしまいそうになるところを、守ののんびりとした言動が上手い具合に引き留めていた。
「ああ、そうだ。美咲ちゃんが来たら一緒にコレを見ようと思っていたんだ」
「?」
言うなり守は綺麗に整頓された棚から、赤く分厚いアルバムを取り出した。
背表紙には年月日がマジックで書かれている。
それはちょうど美咲達が隣に住んでいた日付だった。
「美咲ちゃん達がここにいた頃の写真まとめておいたんだ。良かったら、これ持って帰って」
「え……いいんですか?」
「うん、うちにはうち用にアルバムに収めてあるから」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「えー俺見たい! 美咲ちゃんちょっとめくってみてよ」