第44章 久しぶりの団欒
「……昔の、お母さん……」
美咲の中では、母親はどんな風に見えていたのだろうか。
仕事で家を空けることが多かった母を、女としての生き方を忘れることのなかった母を、彼女はいったいどんな風に受けとめていたのだろう。
「……分からないんです。私。確かに、母との楽しい思い出もたくさんあります。だけど、母に振り回されて、嫌な思いをしたこともたくさんあって……。母は、本当に私を愛してくれていたんでしょうか……?」
「今も、愛していると思うわ。…親の愛って、そんな簡単になくならないものよ」
真由美はそう思っている。
実の子でない美咲や、義明、眞莉亜の事を、わが子のように面倒を見てきた真由美だからそう思えるのかもしれない。
けれど少なくとも、あの頃の美咲の母は。
真由美から見ても、子供達を心から愛していた。
「愛してるんだったら、なぜお祖母さんの元にあなたをやったのか、とは私も思うけれど。真希さんには真希さんなりの考えがあるんじゃないかしら。…こう言うと無責任に真希さんを肯定しているように聞こえるかもしれないけれど……私はそう思うわ」
親の愛を示すことは、親にしか出来ない。
だから結局、いくら真由美が美咲を納得させようとしても、土台無理な話なのだ。
それでも、真由美の真剣に答えようとする姿勢を見て、美咲は少し落ち着いてきたようだった。
「…真由美さん、ありがとう」
涙のあとを残したまま、はにかんだ笑みを見せた美咲に、真由美の胸は締め付けられた。
幼い頃の彼女も、こんな風な笑顔を見せてくれたことがあった。
成長しても、笑い方は変わっていないところを知って、真由美はどこかホッとした気持ちになった。
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夕飯のカレーの仕込みを済ませ、真由美と美咲は一息つこうとしていた。
鍋の火を小さくしたところで、ふいに真由美が何か思い出したように顔をあげた。
「忘れてたわ!」
そう言って大慌てで塩の入ったポットを抱えて、真由美は玄関先へと向かっていった。
塩を抱えて何をするのだろう、と美咲は不思議そうな顔で真由美の背中を見送る。
真由美は玄関に着くなり、乱暴に鍵をあけて外を確認することもせずに大量の塩を玄関先にばらまいた。