• テキストサイズ

【HQ】恋愛クロニクル【東峰旭】

第44章 久しぶりの団欒



しばらくして、落ち着いた美咲の口から、ゆっくりとこれまでの出来事が語られた。

母親に暴言を吐いてしまったこと。
それから母親とギクシャクし始めたこと。

祖母が家に来たとき、もう親子でも何でもないと言われたこと。
その日以降、母に会えずじまいなこと。

合宿中に家族との電話で、母が頑なに電話に出なかったこと。


話し終えると、美咲は真っ赤になった目ですがるように真由美を見つめた。


「私、お母さんに捨てられちゃったんですよね……?」
「子供を捨てる親なんて……!」

──『子を捨てる親なんていない』なんて、言い切れない。
頻繁にテレビを騒がす虐待のニュース。
耳にしたことがない人はいないはずだ。

自分がお腹を痛めて産んだ子でさえ、疎んじたり、あまつさえ手にかけてしまう母親だっている。

けれど。
真由美の知っている美咲の母親──真希は。
そんなニュースに出てくるような母親とは違う。

確かに彼女は世間一般の『常識』だとか『普通』という枠からは大きくはみ出ていた。
けれど、自分の子供達のことは、何よりも愛していたはず。

真由美は自信をなくしかけて言い淀んだ言葉を、記憶の中の真希を思い浮かべながら、今度はハッキリと口にした。

「あなたのお母さんは、あなたを捨てるなんてこと、しないわ」

きっと美咲もその言葉を望んでいたはずだった。
けれど、それと同時に、そう言い切れるだけの理由や確証を、美咲は欲していた。


捨てたのでないなら、何故。
親子の縁を切るような契約を、それまで面識のなかった祖母と取り交わしたのだろうか。


その場で少し考えたくらいでは、真由美にはその理由は分からなかった。
実の子である美咲にさえ分からないのだから、答えを見つけるのは難しいだろう。

「…あなたがお隣に住んでいた頃の真希さんを見てたらね、とてもそんなことをするような人には思えないのよ」

過去の面影しか、真由美には語るところがない。
それでも精一杯美咲の心に届くようにと、真由美はじっと目に力を込めた。

/ 460ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp