第44章 久しぶりの団欒
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テレビから夕方のニュースが流れ始めた頃、真由美と美咲の姿はキッチンにあった。
年季の入ったステンレスのキッチンで料理する2人の後ろ姿は親子のようだ。
「ゆっくりしてていいのに」
もてなそうと思っていた真由美にとって、料理を手伝ってくれるのは嬉しくもあり、心苦しくもあった。
「お邪魔させてもらっているので、これくらいは。それに、お姉ちゃんが真由美さんのカレーのレシピ教えてもらってきてって」
「そうなの。眞莉亜ちゃんも、義明くんも元気にしてる?」
「はい、2人とも元気にしてます」
「眞莉亜ちゃんもういくつだっけ。高校出て働くって言ってたけど、どうしてるの?」
会話をしながらも、2人の手は止まることはない。
器用に包丁でじゃがいもの皮をむく真由美の手元を眺めながら、美咲は隣で玉ねぎを炒める。
「今23歳です。美容師やってます。お姉ちゃんオシャレするの好きだし、お喋り上手だし、天職みたいです」
「そう、美容師さんなの。…そうねぇ、昔も自分で髪の毛いじってたものね。自分が好きなことを仕事に出来て幸せね、眞莉亜ちゃん。
…義明くんは? たしかまだ高校生よね?」
「はい。今高3なんですけど……通信制の高校で。毎日バイトばっかりしてます」
「そう…。2人ともしっかりしてるのね。…お母さん──真希さんは? 相変わらずかしら」
「…お母さんは……」
それまでの弾むような声が急に落ち込んで、美咲は俯いてしまった。
そんな彼女の様子に、真由美は地雷を踏んでしまったのだと悟った。
「ごめんなさい。話したくないこともあるわよね」
「いえ、その……。ここしばらく、会ってなくて……家にも、帰ってこなくて……」
言葉を紡ぐのですら苦しそうな様子を見た真由美は、それ以上無理に話さなくていい、と美咲に言った。
美咲は唇をぐっと噛み締める。
頬を一筋の涙が流れていく。
息子からは断片的な出来事しか聞いていない。
美咲の家族に一体何があったのか。
知りたくとも目の前で悲痛な表情を浮かべる美咲に面と向かって話を切り出すことは、真由美には出来なかった。
静かに涙を流す美咲の背中を、真由美は何も言わずに優しくさする。
真由美の優しさに触れ、美咲の目にはまた涙が押し寄せていた。