第44章 久しぶりの団欒
「あ……」
研磨の小さな声が漏れる。
ほぼ同時に、彼が熱心にのぞきこんでいたスマホから、派手な電子音と『ゲームオーバー』の音声が流れた。
「こら研磨。歩きながらゲームすんなって言ってんだろ」
黒尾にスマホを取り上げられそうになって、研磨はさっとスマホをしまった。
『ゲームオーバー』
その音声は、先を行く夜久の耳にも届いていた。
夜久はその言葉がいやに耳について仕方なかった。
──これからどんな顔をして、美咲ちゃんと2日間過ごせばいいんだ。
あの告白が無ければ、この2日間、違う心持で過ごすことができたに違いない。
あの時、あんなに焦って行動を起こさなくても良かったのに。
夜久の中ではそんな思いが何度も何度もめぐっていた。
──だけど、言わずにはいられなかった。
強引な手を使ってでも、自分を異性として意識して欲しかった。
あの日の夜、東峰と抱き合う姿を見てから。
いや、もっとその前から。
ずっと抱いていた、『東峰に勝てない』という感情が、自分の気持ちを急かしていた。
振り向いてほしい。
気づいてほしい。
身勝手な思いだと分かっていても、行動せずにはいられなかった。
どこかで、諦めていたのかもしれない。
東峰には勝てない。
ならばせめて。
そんな気持ちがあったから、あんな告白をしてしまったのかもしれない。
…なんて、過ぎたことをいくら考えても仕方ない。
もう時間は巻き戻せやしないし、結果として東峰の背中を押してしまったのだから。
気まずくないといえば嘘になる。
けれど歩みを止めることは、夜久には出来なかった。
スピードを緩めることなく、夜久はただひたすら家路を急いだのだった。