第44章 久しぶりの団欒
織部の影を少しでも早く忘れさせようと、真由美は美咲を急かして、家の中へ入った。
ガチャリと閉めた玄関にきっちり鍵をかけて、美咲の背を押しながら真由美はリビングへと向かった。
***************
音駒のバレー部員達を乗せたバスが、音駒高校の校門をゆっくりとくぐってゆく。
到着したバスから降りたバレー部員達に、監督とコーチから今回の合宿の総評と明日以降の部活動についての通達があり、それが終わると早々に解散するようにとのお達しがあった。
合宿の疲れからか、車内でねこけていた部員達は解散の声に続いて、大きく伸びをする。
「じゃーな」
「お疲れー」
口々に言って部員達はその場を後にする。
とはいっても、学校から最寄りのバス停までほとんどの部員がぞろぞろと連れ立って帰る。
その集団の中には、どこか気落ちした様子の夜久と、それを気に掛ける後輩達の姿があった。
「夜久さん、なんかあったんすか? バーベキューの時から元気ない感じですけど」
黒崎に告白するきっかけを意図せず作ったリエーフにそう聞かれ、夜久は悪気の無い後輩の顔に思い切りため息をはいた。
「べつに。なにもねーよ」
「そっすか? なんかいつもと違う感じしますけど」
「…しつけーな。何もねぇって」
もう声をかけられたくないとでも言いたげに、夜久はリエーフから一歩先に踏み出して、ずんずんと歩みを速めていく。
けれど、長身のリエーフの歩幅は、夜久が少し歩みを速めたくらいでは、そう簡単に追い越せるものではなかった。
必死に先を行こうとする夜久をリエーフは不思議に思っていた。
「リエーフ、やめとけやめとけ。あいつ今、超機嫌悪いみたいだから」
数歩後ろを歩いていた黒尾が、リエーフにそう言うと、リエーフはすぐに黒尾の元に駆け寄った。
「え、なんでですか? 俺なんかしましたっけ」
「いやお前がどうこういう話じゃねぇと思うけど。まぁ今はそっとしといた方が身のためだぞ」
「そっすか……分かりました」
黒尾は何か夜久が不機嫌な理由を知っていそうな顔をしていた。
けれど少し先に夜久がいる今この状況で、リエーフにその理由を聞く勇気はない。
なんだか釈然としない感じだけが、リエーフの胸中に残った。