第44章 久しぶりの団欒
真由美は、息子の衛輔から聞いた話と織部の話では随分と受ける感じが違うと思いながらも、目の前の織部の淡々とした説明に異議を唱えることは出来なかった。
そうですか、と真由美が答えると、織部は手に提げていた紙袋を真由美の前に静かに差し出した。
「なんです?」
「美代子様からお預かりしてきたものです。どうぞお受け取りください」
「何か知りませんが、受け取る義理はありませんので。どうぞお構いなく」
中身は何か分からなかった。
けれどそれがたとえ目のくらむような宝物だったとしても、真由美は受け取ることはなかっただろう。
真由美のそっけない態度にも、織部は表情ひとつ変えやしなかった。
それがまた不気味で、真由美は怯みそうになる自分を奮い立たせた。
「そうおっしゃらずに。今までも夜久様には色々とご迷惑をおかけしております。そういったものも含めての…」
「迷惑? 迷惑だなんて感じたことありませんから! あの子のことでそう思ったことなんて一度もないです! だからもうお引き取りください!」
『迷惑』
この一言が、真由美の逆鱗に触れるなどと、織部は思いもしなかった。
小学生の頃、ほぼ真由美達が世話をしたといっても過言ではない事を知れば、誰もが『自分の子でもない、親戚の子でもないのによくそんな世話を出来たね』と驚き、中には呆れる者もいるだろうし、または褒めそやす者もいるだろう。
だから、織部の言葉も世間一般の感情からそうずれたものではない。
けれど真由美にとっては、たとえ美咲の関係者であっても、彼女と、彼女の家族のことを厄介者扱いすることは、全く考えられない事だった。
力強く押し返された紙袋を一瞥して、織部はやはり表情ひとつ変えずに、また測ったかのようなきっちりとしたお辞儀をする。
「…ご気分を害してしまい、申し訳ありませんでした。それでは私はこれで失礼いたします」
最後まで一貫して冷たくも見える落ち着いた態度を崩さず、織部は帰っていった。
織部の姿が見えなくなったころ、車から降りた美咲がゆっくりと真由美の元に近寄ってきた。
不安そうな顔の美咲に、真由美は太陽のような満面の笑顔を見せる。
「大丈夫、ただ挨拶に来ただけみたいよ」
「そうですか……」
「さ、家に入りましょ! 疲れたでしょうから、ソファでゆっくりしてね」