第44章 久しぶりの団欒
「…織部さん、です。……祖母の、お付きの人なんです。……多分、私の様子を見に来たんだと思います」
宮城に帰ってから、全く祖母の影がちらつかなかったわけではない。
週に2回は報告を入れるようにと言われていて、嫌でも連絡を取らなければいけなかったし、時折ご丁寧にも封書が家に届くこともあった。
今のように織部が姿を現すことはなかったが、あの祖母のことだから、監視でもつけていそうではあった。
「……あなたのお父さんの実家の関係者、ってことね。…衛輔からなんとなく話には聞いていたけれど……家にまで来るなんて」
「ごめんなさい、」
「美咲ちゃんが謝る必要はないわよ。…何の用かしらね。美咲ちゃんは車の中で待ってて」
言って真由美は車庫に車を停めると、1人で織部の元へ向かっていった。
美咲も行くべきかどうか悩んだものの、それまでの楽しい気分を台無しにされた気がして、真由美の言いつけ通り車内にとどまることにした。
真由美が着くまで、織部は背筋をピンと伸ばした美しい姿勢を保ったままだった。
じっとりと汗をかいてシャツが張り付いている真由美とは対照的に、黒いスーツに身を包んだ織部は汗一つかいていなかった。
それと同じように表情も全くの無表情で、愛想のひとつもない織部に、真由美は背筋にぞくりと走るものがあった。
「こんばんは。どちら様でしょうか」
美咲から織部のことは聞いたものの、いまだ真由美にはこの黒いスーツの人物に対する不信感はぬぐえなかった。
カバンの中の携帯を握りしめながら、織部の無表情な顔をうかがうように声をかけた。
「こんばんは。お初にお目にかかります、西園寺家の使いの織部と申します。今日明日と美咲様がご厄介になるとうかがいましたので、ご挨拶に参りました」
「はぁ、そうですか……すみませんが、美咲とどういった関係になるのでしょうか? その、西園寺さんとやらは」
「申し訳ありません、そこからお話しするのが筋でございますね。少々長くなりますが、よろしいですか?」
そう前置きして、織部は美咲が西園寺家の養子になったいきさつを話し、今ここに自分がいる理由を説明した。
もちろん、半ば無理矢理、誘拐のように美咲を東京へ連れて行ったことはうまくオブラートに包みながら。