第44章 久しぶりの団欒
「部活の、先輩で……背が高くて、見た目少し強面なんですけど、すごく優しいんです。…私の家の事情も知っていて、それでも付き合ってくれるような、優しい人です」
「そっかぁ……いい人に巡り合えて良かったわねぇ」
彼氏のことを話す美咲の声音は幸せに満ちている。
ひとつひとつ噛み締めるように言葉を紡ぐ美咲の頬がほんのり桜色に染まっているのを見て、真由美は嬉しそうに頷く。
突然、去って行ってしまった彼女が、今幸せで本当に良かった。
衛輔からは少し前までまた音信不通になってしまったと聞いていたから、心配していたものの、今隣で微笑んでいる美咲を見れば、彼女が心から満ち足りているのがよく分かる。
「まぁ、うちの衛輔とそうならなかったの、ちょっぴり残念ではあるけど」
真由美が笑ってそう言うと、美咲は何も答えなかった。
代わりに困ったような笑いが返ってくる。
何の気なしにした発言だったが、何か地雷を踏んでしまったのかもしれない。
そう思った真由美はそれ以上自分の息子の名を出すことをやめた。
「…これから楽しみがいっぱいね。夏休みだし、海とかお祭りとか、たくさん思い出作れるといいわね」
「そう、ですね……でも基本、夏休み中ほとんど部活だから、出かけるのは難しいかなぁ」
「そうねぇ……うちの子も毎日部活行ってるものねぇ。悩ましいところね」
少しばかり不自由なくらいが、恋愛は楽しいかもしれない。
けれど付き合いたての一番楽しい頃に、デートのひとつも出来ないというのは、もったいない気が真由美にはするのだった。
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1時間半ほど車を走らせ、夜久の家に到着した。
到着してすぐに、美咲と真由美は玄関先に不審な人物がいることに気づいた。
その不審な人物は真由美達の乗る車に気づくと、きっちり測ったかのような角度でお辞儀をする。
日が落ちてきてもいまだ蒸し暑いというのに、黒いスーツを着込んだ人物は、じっと真由美と美咲を見つめている。
「……どなたかしら」
真由美には黒いスーツの人物に、心当たりが全くなかった。
けれど助手席の美咲は何やら知っているようで、先ほどまで楽しく話していた時とガラリと変わって顔を曇らせている。