第44章 久しぶりの団欒
「美咲ちゃんがいなくて寂しいのかしらね、部の人達」
もう何度目か分からない着信音に、真由美はくすくすと笑っている。
信号が黄色から赤に変わり、車はゆっくりとスピードを落とした。
また菅原からのメッセージだろうと、携帯に目を落とした美咲の表情が一瞬にして変わったのを、真由美は見逃さなかった。
自分と顔を合わせた時の笑顔とはまた違った、どこかはにかんだ美咲の笑顔は、恋する少女のそれといって差し支えない。
──美咲ちゃんも年頃の女の子だから。
好きな人か、あるいは彼氏くらいいるはず。
彼女の家庭は、『普通』とは違っていた。
だから彼女も『普通』の子供ではなかった。
それが悪い事だとは真由美は思っていなかったが、世間では彼女の家庭を良しとしない方が多数派だった。
幼い頃から様々な場面で苦労してきた彼女が、今こうやって『普通』の女の子と同じように、恋をしていることが、真由美にとっては何よりも嬉しかった。
熱心に携帯の画面を見つめる美咲に、真由美はいたずらっぽく声をかけた。
「彼氏?」
「えっ?!」
美咲は真由美の一言にひどく驚いて、携帯を座席の下に落としてしまった。
携帯を拾い上げる美咲に向かって「ごめん、聞かれたくなかったかな」と真由美が謝ると、美咲は小さく首を横に振った。
「…いえ……。あの、でもまだ、慣れなくて……ちょっと、恥ずかしかったから」
「そうだったの。…じゃあ、まだ付き合い始めて間もない感じなの?」
「……はい。つい、さっき、そういう事になって……」
「えっ、そうなの? あらぁ、じゃあ悪い事したわねぇ。せっかくのお休みにうちに来させちゃって。デートの予定とか立てたかったでしょうに」
真由美が申し訳なさそうに言うので、美咲は今度は大きく首を横に振る。
「そんなこと! おばさん達に会いたかったし、気にしないでください」
「ふふ、ありがとう。……で、どんな子なの? 彼氏くんは」
真由美は嬉しそうに声を弾ませる。
自分の母親と、こんな風に会話出来たら。
美咲の頭にそんな思いがよぎった。
ちくりと胸が痛むのを抑えながら、美咲は答えた。