第44章 久しぶりの団欒
「また、次の合宿でな」
「あぁ。またな」
言って旭先輩はバスに乗り込んでいった。
衛輔くんと烏野のバスを見送る。
手を振るみんなの姿が小さくなるまで、ずっと手を振り続けた。
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宮城へ向かうバスの中は静かだった。
それもそうだろう。
この一週間、朝から晩まで練習につぐ練習。
疲れが抜けきらないまま、皆ひたすら練習に打ち込んでいた。
いつもなら元気が有り余っている日向や田中達も、先ほどまで行われていたバーベキューで限界まで食べていたせいか、規則的な車の揺れに今にも眠りに落ちそうになっている。
そんな中で、菅原はこの静かな車内にいない人物の事を考えていた。
『黒崎さんは都合があって、帰りは別になります』
バスに乗り込む前、武ちゃんがしてくれたのは手短な説明だけだった。
菅原も黒崎には何か個人的な事情があるだろう事は理解していた。
乗車前に菅原が小耳に挟んだ話では、黒崎は夜久の家に厄介になるらしかった。
通路を挟んだ隣の席に座る東峰は、ぼうっと外の景色を眺めている。
焦った様子は見られなかった。
恋敵であるはずの夜久の家に、想いを寄せる相手が行くというのに、ずいぶんと落ち着いているように見えて、それが菅原の目に不思議に映った。
(バスに乗る前、美咲ちゃんと話してた旭、いつもと雰囲気違ってたもんな……)
東峰からも、黒崎からも、2人の仲が進展したという話は聞いていない。
しかし2人の間で何かあったのは確実だった。
菅原の中ではだいぶ確信に近かったが、直接本人から聞くまでは、早合点はすまいと考えていた。
「なぁ、旭。旭は聞いてたんだろ、美咲ちゃんが夜久の家に行くって事」
窓の外からこちらに顔を向けた東峰は、「あぁ」という短い言葉とともに、こくりと頷いた。
菅原の質問に気分を害してそっけなく答えている風ではない。
やはりいつもの東峰とどこか違う。
「……心配じゃねぇの?」
「心配?」
「だって、夜久と何かあったりとか……」
「大丈夫だよ。2人とも裏切るような事はしないから」
東峰の口から出た言葉に、菅原は驚いていた。
それと同時に、自分の想像が間違っていないことを確信して、嬉しくなった。
「…旭、その言い方ってさ…」