第44章 久しぶりの団欒
合宿最終日も終盤。
バーベキューの片付けも終わり、あとはバスに乗り込んで帰るだけだった。
「あの、旭先輩」
荷物をまとめて、他校の部員達との挨拶がひと段落した頃合いを見て、私は旭先輩に声をかけた。
校舎裏での出来事がまだ生々しい感触とともに鮮明に思い出されて、なんだか気恥しい。
それは旭先輩も同じようで、こちらを見ている旭先輩の耳は心なしか赤かった。
「どうした?黒崎」
「…私、この後衛輔くんのお家にお邪魔することになっていて……衛輔くんのお母さんに迎えに来てもらって、そのまま一泊してから宮城に帰ります」
衛輔くんとの事を、旭先輩も見ていた。
そんな後で、衛輔くんの家に泊まるだなんて、旭先輩はいい気はしないだろうけれど。
衛輔くんのお母さんと約束をした手前、取りやめにするわけにはいかない。
先輩がどんな顔をするか少し不安だったけれど、旭先輩はただ静かに頷いただけだった。
「…そっか。…帰りは?」
「帰りは、新幹線で日曜の夜に帰る予定です」
「じゃあ日曜日、駅まで迎えに行くよ。帰る時間分かったら連絡して?」
旭先輩はさも当然のように、迎えに行く、と口にした。
それがなんだかくすぐったくて、口元がにやけそうになるのを必死でこらえた。
「はい。また連絡します」
「うん。…じゃあ、また日曜日にな」
ぽん、と旭先輩の大きな手が頭に置かれて、そのまま優しく2、3度頭を撫でられた。
それだけで一気に顔に熱が集まってしまったのに、旭先輩は平然とした顔をしていて、なんだか負けた気分だ。
「美咲ちゃん、母さんもう少しで着くって。……悪いな、東峰。少しの間、美咲ちゃん借りるな」
声に振り返ると、少し複雑そうな顔をした衛輔くんが立っていた。
「…あんな事やった後で、信用ねぇだろうけどさ…手出したりとかはしねぇから。安心して」
「夜久はそんな事する奴じゃないって思ってるよ。念押ししなくても大丈夫」
旭先輩は笑みを浮かべているはずなのに、全く笑顔に見えなかった。
澤村先輩みたいな迫力のある笑顔の旭先輩は、初めて見たかもしれない。
「言うねぇ東峰。ま、俺も人様の彼女に手ェ出すほど、人として落ちぶれるつもりねぇし」