第1章 一枚のビラ
「えっ、あっ…」
ノーとも言えず、イエスとも言えず、言葉につまる私に清水先輩は優しく微笑んだ。
「いきなりマネージャーってのもあれだろうから、よかったら見学にきて?毎日放課後、体育館で活動してるから」
美しい笑顔とともに、白魚のような手からビラを一枚手渡される。
はぁ、となんとも微妙な返事をしながら私はそのビラを受け取った。
『男子バレー部マネージャー募集!』
太字で大きく書かれた文字がいやでも目に入る。
男子バレー部、ってどんな感じだったっけ。
入学してすぐの部活紹介で目にしたけれど、あまり印象には残っていない。
もともと部活動をする気がなかったから、他の部活だってあまりよく覚えていないけれど。
「私、3年の清水潔子です。えっと、」
「…あっ、わ、私は黒崎美咲です」
「よろしくね、黒崎さん。じゃあ放課後に。よかったら今日来てもらってもいいからね」
「あ、はい…」
清水先輩は去って行く後ろ姿も美しかった。
ドラマや漫画だったら、キラキラの効果がはいっているところだろう。
「いいなぁ美人マネージャー…」
「うちの部にも欲しい…」
はぁ、と深いため息をつく男子生徒達。
彼らとは違った意味で、私も深いため息をつく。
「あのさぁ、なんでかマネージャーやることになってるんだけど」
恨めしそうな目で件のクラスメイトを見つめる。
しかし即座に彼女は正論をぶつけてきた。
「嫌なら断ったらいいじゃん?」
「いや、あの感じで断れないでしょ…フツー」
「すっごい目輝かせてたもんね、清水先輩。でもいいじゃん、部活・青春・美人な先輩!ザ・高校生って感じするじゃん」
「私は平穏無事に過ごしたかったんだけど…」
「んもう、だから嫌なら断れば?」
「……」
これ以上問答しても何も変わらない気がして、私はそこで言葉を紡ぐのをやめた。