第43章 合宿の終わりと、恋の終わりと、
笑いながらそう言って、夜久は去って行った。
夜久は、強いな。
無理して笑ってるんだとしても、あんな風に無理できるなんて俺には真似できそうにない。
深呼吸を一つ。
想いを告げた後、どうなるか分からないけれど。
傷ついても、苦しくても。
俺も区切りをつけなければいけない気がして、黒崎の元に一歩足を踏み出した。
「…黒崎」
「旭先輩……」
俺が姿を現すと、黒崎の目が大きくなって、すぐに気まずそうに視線を落とした。
さっきの夜久との一部始終を見てしまったこと、きちんと話した方がいいだろう。
そうでないと、俺の今からの行動が、ずいぶん突飛なものに思えてしまいそうだし。
……ああ、もうこんなうだうだと理由をつけないと、俺は行動出来ない男なのか。
夜久の思い切りのよさをうらやましく思いながら、ふぅと息を吐く。
「黒崎、先に謝っとく。…さっき、夜久に告白されてるところ、俺見てた」
「……そう、ですか……」
「……うん……」
そこで会話が途切れてしまった。
俺、何やってんだろ。
これじゃただただお互い気まずいだけじゃないか。
「あ、誰かに言ったりとかしないから!」
「……はい……」
…違う違う!
そういうことじゃなくて。いやそれも大事だけど!
あぁもう、告白って、どうすればいいんだ?!
頭の中はパニックで、雰囲気とか、話す順番とか、もうごちゃごちゃで考えられなかった。
「あ、あのな」
「……はい」
黒崎はずっと足元に目をやったままだ。
俺はそんな彼女の伏せられた長い睫毛をじっと見つめている。
「俺、夜久が告白してるところを見て、焦った」
「……焦る? 旭、先輩が?」
「うん」
ゆっくりと顔を上げた黒崎の目が、どうして?と尋ねたそうにしている。
ようやく視線があって、少しだけホッとした。
それと同時に、体中が熱くなっていくのを感じた。
変な汗が背中を流れていく。
これは暑さのせいだけじゃないはずだ。
「…俺、黒崎の事、好きだから。その、女の子と、して。だから、夜久に取られたくなくて、焦った」
黒崎は始めきょとんとしていたけれど、次第に驚いた顔になっていって、何度も目をぱちくりとさせていた。