第43章 合宿の終わりと、恋の終わりと、
「…っ!」
もう一度、強く衛輔くんの体を押す。
するとようやく衛輔くんは体を離してくれた。
わなわなと、自分の唇が震えているのが分かった。
言葉をぶつけたいのに、息が漏れ出るだけで、何も言葉に出来ない。
「…ごめん。でもこうでもしないと、美咲ちゃん俺の事、男として意識してくれないだろ」
ふっ、と衛輔くんの後ろにいた影が動いた気がした。
衛輔くんから視線を外してそちらに目をやった瞬間、衛輔くんががっちりと私の両肩をつかんだ。
「なぁ、なんで目逸らすんだよ」
「……だ、だって、誰か……」
──誰か。きっと、旭先輩が。すぐそこにいるから。
さっきの、私達の事を、見てしまった先輩がすぐそこにいるから。
旭先輩に、誤解されたくない。
衛輔くんの気持ちに返事をするより先に、そんな思いが私の中でいっぱいになっていた。
「誰もいねぇよ!」
衛輔くんはそう叫んだ。
そんなはずは、ない。
衛輔くんだって気配を感じているはずだ。
「……なぁ、俺の事見てよ。……頼むよ、俺の事、好きになってよ……」
私の目を真っすぐ見ていた衛輔くんの顔が次第に泣きそうな顔になって、力なくうなだれていった。
……いつまでも、黙ったままじゃないけない。
衛輔くんを傷つけたくない、って逃げてちゃいけない。
結局私は自分が嫌な思いをしないように逃げてただけだ。
ここまで衛輔くんにさせてしまったのは、思いつめさせてしまったのは、私だ。
自分で始末をつけなきゃいけないんだ。
「……衛輔くん。私は、衛輔くんの気持ちに応えられない。……ごめんなさい」
衛輔くんはうなだれたまま、私の言葉を聞いていた。
しばらく、反応は無かった。
「……謝んなよ。…美咲ちゃんが悪いんじゃねぇんだから」
衛輔くんの声が震えている。
声の震えに呼応するように、一つ、また一つと透明な雫が地面に落ちていった。
乾いた地面に雫が弾けて、そこだけ濃い色になって染みをつくる。
私はしばらくじっとその染みを見つめていた。
「……分かってたよ、美咲ちゃんにフラれるって。分かってたけど。……それでも、もしかしたら、って。万が一の可能性に、かけてみたんだけどな」
「……」
雫はもう、落ちなかった。
急に顔をあげた衛輔くんは、先ほどまでの悲痛な表情から一変して、笑顔になっていた。