第43章 合宿の終わりと、恋の終わりと、
「美咲ちゃん、俺、美咲ちゃんの事が好きだ」
──私も衛輔くんのことは好きだよ。
『やくのおにいちゃん』として──
私がそう言うとでも思ったのだろうか、衛輔くんは私の返事を待たずに言葉を続ける。
「美咲ちゃんが俺のこと、『やくのおにいちゃん』としか見てないのは分かってる。だけど、俺は美咲ちゃんのこと、異性として、好きなんだ」
ああ。
聞いてしまった。
衛輔くんの本当の気持ちを。
もう、子供の頃の私達には戻れない。
「……」
なんて、言葉を紡いだらよいのか分からなかった。
ごめんなさい、やくのおにいちゃんとしてしか見れない。
衛輔くんのことは恋愛対象として考えたことはない。
そう、ハッキリ言わなければいけないのに。
言ってしまったら、衛輔くんを傷つけてしまう。
衛輔くんの気持ちを受け入れる気はないのに、断りの言葉が出てこない。
どんなに言葉を選んでも、衛輔くんを傷つけることには変わりない。
だから、変に時間をおかずに、すぐに答えてあげなきゃいけないのに。
黙ったままの私に、衛輔くんは静かに近づく。
詰められる距離と同じだけ、私も後ずさる。
だけど衛輔くんは私を逃すまいと、一気に距離を詰めてきた。
その勢いのまま、私の影と衛輔くんの影が重なった。
「…っ!」
唇に熱いものが触れる。
衛輔くんの長い睫毛が頬をこすった。
一瞬何が起こったか分からなくて、フリーズしてしまった。
ぎゅっと握られた手首の熱と、じわりと額ににじむ汗と、微かに鼻腔をくすぐる制汗剤の匂いが、徐々に私の頭を動かし始める。
つかまれていなかった方の手で、衛輔くんの胸を押しやった。
力を入れているのに、衛輔くんの体はビクともしない。
なんで、やめてくれないの。
押さえつけられた唇は動かすこともままならない。
ただ精一杯衛輔くんの体を押し返すことだけが、唯一私にできる抵抗だった。
衛輔くんの体が離れないまま、私の耳に、ジャリ、と靴が砂を噛む音が届いた。
──誰かが、そこにいる。
直感的に、旭先輩だと思った。
衛輔くんに塞がれてそちらをはっきりと見ることは出来ないけれど、じっとこちらに視線を送っているのは、きっと旭先輩に違いないと、直感的にそう思った。