第43章 合宿の終わりと、恋の終わりと、
「…黒崎、着替えある? そのままじゃ風邪ひいちゃうよ」
旭先輩が心配そうに声をかけてくれた。
それに気づいた衛輔くん達も着替えておいで、と口をそろえる。
「あ、はい……着替えてきます」
周囲の視線を浴びながら、私は早足で着替えに向かった。
バーベキューが終わったらすぐ出発するからと、荷物は体育館に集めてある。
自分のカバンから着替え一式を取り出して、近くの女子トイレに向かった。
着替えを済ませてトイレから出ると、少し離れたところに衛輔くんの姿があった。
「…美咲ちゃんホントうちの奴がごめんな」
「衛輔くんがそんなに気にすることないよ。かぶったのお茶だし、拭けばどうってことないし」
「…優しいな、美咲ちゃんは」
「そうかな? 普通だよ」
「……あのさ……」
「ん?」
衛輔くんの表情はいつもと少し違った。
どこか思いつめたような、苦しそうな。
「ちょっと、話したいことがあるんだけどさ」
どくん、と心臓の音が聞こえた。
話したい事。それって、もしかして。
雀田さん達にあれこれ言われたせいかもしれない。
自意識過剰なのかもしれない。
だけど目の前の衛輔くんの思いつめた顔と、ぐっと握りしめた拳と、少し震えている声を聞いたら。
何を言おうとしているのか、想像してしまう。
「……そっか。じゃあ歩きながら話そ」
私は、衛輔くんとの関係をハッキリさせたくないのだ。
ハッキリ、告げられるのが怖いと思ってる。
その言葉を、衛輔くんの想いを聞いてしまったら、もう今までの関係ではいられなくなる。
『やくのおにいちゃん』じゃなくなってしまう。
それが、ひどく、怖いんだ。
「…いや、今ここで話したいんだ」
衛輔くんの手が、私の手首をつかんだ。
一歩踏み出しかけた足を止められ、その場に縫い留められたように動けなくなってしまった。
「……なんで? 他の人に聞かれちゃマズイ話?」
衛輔くんが話したいと思ってる事が、もしかしたら私の想像するものと違うかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて、わざと茶化すように笑って振り返った。
振り返った先の衛輔くんの目は、まったく笑っていなかった。
私の心の奥を見透かすような、真っすぐな目。
逸らしたいのに逸らせなかった。
真剣な目をした衛輔くんに、私の笑みも徐々にひきつったものになる。