第43章 合宿の終わりと、恋の終わりと、
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練習が終わり、部員が一息ついている間に、マネージャーと先生達で先にバーベキューの準備に取り掛かることにした。
だけどバーベキューコンロを運び出しているうちに、休憩もそこそこに、部員達が飛び出してきて手伝いに参加し始めた。
その中には旭先輩の姿もあった。
旭先輩は私の元に駆け寄ると、私の手から運んでいた荷物をひょいと取り上げた。
「手伝うよ」
「あ、ありがとうございます」
さきほどの雀田さん達との会話を思い出し、少し気恥しくなる。
周囲の視線が気になって、荷物を任せたまま旭先輩のそばから離れようとした。
「待って黒崎」
旭先輩に呼び止められて、ドキッとする。
名前を呼ばれただけで、こんなにドキドキするものだったかな……そう思いながら旭先輩の方に振り向いた。
「これどこに持っていくの」
「あ、えっと、それはあっちのコンロの方にお願いします」
「分かった」
旭先輩が荷物を運んでいくのを見送って、私はまた別の仕事をしようと先輩に背を向けてその場を離れた。
野菜が盛られたお盆を運んでいる途中でまた旭先輩がやってきて、私の代わりにお盆を運んでくれた。
その時にふと触れた手が熱くて仕方なかった。
他にもやることはあるのに、わざわざ私のところに来てくれている?
なんて、また都合よく考えてしまう。
旭先輩はいつも通りだし、また私が1人で空回りしてるんだと分かっているけれど。
いつまでたっても落ち着かない心に、1人ため息をついた。
バーベキューの準備も終わり、部員たちはそれぞれバーベキューコンロを囲んでいまかいまかと開始の合図を待っていた。
先生方の挨拶が終わると、低く大きな雄叫びとともにまるで戦場のような光景が目の前で繰り広げられ始めた。
どのコンロも焼けた肉を求める男子高校生で溢れかえり、焼き上がりの瞬間に全ての肉をかっさらう者、人の皿の上の肉を横取りする者……皆攻防を繰り広げていた。
「ほんっとみんな肉好きだよね」
「見てるだけでお腹いっぱいになりそうだね」
潔子先輩の言う通り、部員たちの食べる光景を見ているだけでこっちもお腹いっぱいになりそうだった。
苦労して切った野菜もみるみるうちに消費されていく。その割合は肉に比べると少なかったけれど、それでも減っていくスピードは速かった。