第42章 シロツメクサ
3人の事情をよく知らない赤葦は、木兎がまた他校の人間に迷惑をかけまいかと心配で、木兎の一挙一動を見守っていた。
昨夜の肝試しで東峰には随分と迷惑をかけてしまった。
また今日も何か厄介なことにならないかと、赤葦は気が気ではなかった。
「俺も混ざってこよーかな」
「待ってください木兎さん」
すでに体育館から半分出かかっていた木兎のシャツを掴んで、赤葦が制した。
首元がギュッとしまったせいか、木兎はグエッと変な声を出した。
「あんだよー、赤葦! 休憩がてら外行ってもいいだろー」
「それは構いませんが。ただ、今は東峰さんの邪魔をしない方がいいかと」
「邪魔?」
赤葦の言葉に木兎は首を傾げた。
「よく見てください、木兎さん。東峰さんも夜久さんも、黒崎さんにお花をあげてるみたいです」
「おぉ。言われてみれば確かに。…けど、別に俺が混じったっていいじゃん?」
木兎にはあの3人の関係が分かっていないようだった。
数日前、烏野のマネージャーが倒れた時から赤葦がぼんやりと抱いていた想像が、今目の前の3人の姿を見て、はっきりと確信に変わっていた。
「……シロツメクサの花言葉には『私のものになって』というものがあるんです」
赤葦の口から飛び出た『花言葉』に、木兎も黒尾も一瞬ぽかんとした。
「そうなのか。物知りだな!赤葦は」
赤葦の意図は木兎には通じなかったようだが、3人の事情を知っている黒尾にはバッチリと伝わったようだ。
「へぇ。それじゃ、あれは『プロポーズ』になんの?」
黒尾は、2つ目の花冠を黒崎の頭にのせる夜久と、指輪らしきものを黒崎に手渡す東峰を指さしてニヤッと笑った。
「……『花言葉』通りなら」
「赤葦はどっちがオッケーしてもらえると思う?」
「えっ…いや俺はあの3人の関係に詳しくはないので……」
「は? 何、どういう事? 誰が誰にプロポーズ???」
赤葦と黒尾の会話に疑問符を浮かべる木兎をおいてけぼりにして、黒尾はなおも赤葦に問いかけた。
「赤葦の目にはどう見える」
「……そう、ですね……」
黒尾の問いに、正しい答えなんて求められてはいないのだろう、と赤葦は思った。
単に会話のキャッチボールに過ぎないのだろう。
けれど黒尾の目がいつもより鋭い気がして、適当に答えるのも憚られた。