第42章 シロツメクサ
「……今でも作れるんだね、花冠。小さい時、いっぱい作ってくれたよね」
「めちゃくちゃ作ったな! 花冠つけてお姫様ごっこ、よくやってたよな。美咲ちゃん、俺に『王子様やって』なんて言ってさ」
思い出して、美咲ちゃん。
幼い頃、君がお姫様で俺が王子様だったこと。
囚われの姫君を救い出す王子様は、俺だったこと。
「そうだね……」
『懐かしいね』って、美咲ちゃんは言ってくれるかと思ったのに、少し戸惑いがちに言葉少なに答えただけだった。
もう昔の話なんてしても、美咲ちゃんには響かないのかもしれない。
俺には昔の思い出しか、切り札がないのに。
「夜久は器用だな。俺なんて指輪くらいしか作れないよ」
東峰はしゃがみこんで、適当にシロツメクサをひとつ摘んだ。
無造作にくるっと茎を巻いて、なんとも不格好な指輪が出来上がる。
「指輪も意外と難しいな。…はい、黒崎。あげる」
「っ、ありがとうございます……」
俺に対抗するかのように、東峰が美咲ちゃんにシロツメクサの指輪を渡した。
俺の作った花冠より嬉しそうに受け取る美咲ちゃんの顔が、声が、心臓に突き刺さった。
よりにもよって、指輪とか。
深い意味はないのかもしれねぇけど、なんか癇に障る。
結局、子供の頃の思い出を引き合いに出したところで、俺が劣勢なのは変わらなかった。
逆に2人の距離の近さを見せつけられてしまった。
ズキズキと胸が痛んでるのを気取られないように、俺はムキになったフリをして、シロツメクサのネックレスを作り始めた。
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「お? なんか楽しそうなことやってる」
木兎が、体育館の裏手の土手の下あたりを眺めながらそう言うので、一緒に休憩をとろうとしていた黒尾と赤葦もチラとだけ木兎と同じ方を見やった。
そこでは烏野の東峰とマネージャー、音駒の夜久がしゃがみこんで何やら花を摘んでいる。
マネージャーだけならまだしも、男2人が熱心に花を摘んでいる姿は、何かのコントのように見えた。
「…何やってんだあいつら…」
黒尾はさして夜久の恋愛を熱心に応援しているわけではなかったが、さすがにシュールな光景を目にしてはそのまま見なかったことには出来なかった。