第42章 シロツメクサ
このままここから逃げ出すことも考えた。
だけどそれじゃ東峰に白旗を振ったのも同然になる気がして、俺は気合を入れて2人の前に姿を見せることにした。
「あれ、美咲ちゃん。どした、目真っ赤だぞ」
白々しく聞こえたかもしれない。
精一杯の演技で、今偶然ここを通りかかったように装って、2人に近づいた。
さっきまで近かった美咲ちゃんと東峰の間にはぽっかりと空間が出来ていた。
きっとリエーフの声がしたあたりで離れたんだろう。
「衛輔くん……」
美咲ちゃんは何と言っていいのか困った顔。
……なんでだよ。
さっき、東峰には話してたじゃねぇか。
なんで、俺には話してくれねぇの。
「東峰、お前なに泣かしてんだよー」
涙の理由なんてとっくに知ってるけど。
知らないフリをしていつもみたいに東峰に絡んだ。
東峰も困った顔をして俺を見るばかり。
なんだよ。
俺、なんか道化みたいじゃねぇ?
俺ひとりのけ者にされたみたいで、胸の痛みがさらに増していく。
分かってるよ、俺が今2人の間の邪魔してるってことはさ。
だけどさ。
お前ら2人の仲が深まるのを、みすみすと見逃すわけにはいかないんだよ。
俺の考えが伝わったのかなんなのか、美咲ちゃんも東峰も反応が鈍い。
妙な沈黙が嫌で、わざとらしく明るい声を出した。
「おっ、ここシロツメクサいっぱい咲いてんじゃん」
急に何言ってんだ、って感じできょとんとしてる顔の東峰。
そうだよな。
お前は知らないんだよな。
東峰にしか知らない美咲ちゃんの事もあるだろう。
反対に、俺しか知らない美咲ちゃんの事もある。
俺の手持ちのカードには、子供の頃の美咲ちゃんとの思い出がいっぱいあるんだ。
これだけは、東峰に負けることはない。
「美咲ちゃん、ちょっと時間くれない?」
言って、俺はその場に座り込んだ。
そこら中に咲き誇ってるシロツメクサを摘んで、幼い頃の記憶をたどりながら、花冠を作った。
「出来た。はい、美咲ちゃん」
美咲ちゃんの頭にそっと出来上がった花冠をのせる。
目をぱちぱちさせてた美咲ちゃんだったけれど、何か思い出したのか、真っ赤な目のまま、くすっと笑って「ありがとう」と口にした。