第42章 シロツメクサ
おそるおそる上目でチラリと旭先輩の顔を見ると、先輩は眉根をぎゅっと寄せた辛そうな表情をしていた。
まるで私の心の痛みをそのまま感じてくれたような。そんな表情だった。
「…今まで、ずっと一人で抱えてしんどかったな」
旭先輩の手が、またゆっくりと背中をさする。
たまらなくなって先輩の胸に顔をうずめてしまった。
ぎゅっと握りしめたTシャツが、私の涙を吸い取っていく。
先輩だとか、後輩だとか。
恋愛感情だとか、そんな諸々はもう頭には無くて。
ただ優しく寄り添ってくれた事が有難くて、私は遠慮もせずに旭先輩の優しさに甘えた。
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*夜久side*
俺はただ2人の様子を陰からずっと見ているだけしか出来なかった。
美咲ちゃんが重い口をひらいて、母親との話をしているのを、ぼうっと見ているだけだった。
美咲ちゃんが行方をくらました、あの1ヶ月。
詳しい話はまだ聞けてなかった。
そしてそれ以前に、母親とギクシャクしてた話を知らなかった。
昔は、なんだって俺に相談してくれていたのに。
今は、俺、知らない事ばかりだ。
東峰には話せるのに、俺には話せないのか。
いつだって俺に頼れる場面はあったじゃないか。
頭の中は「なんで」でいっぱいだった。
なんで俺じゃないんだ。
なんで東峰なんだ。
なんで、なんで、なんで。
「夜久さん! 美咲ちゃんには会えました?」
急に声をかけられて、驚いてそっちを見ると。
場ににつかわしくない明るい笑顔のリエーフがそこに立っていた。
「しっ!」
「なんすか?」
普段なら「元気があっていい」と思えるリエーフの地声のデカさが、今は恨めしい。
声を出すなと小声で話す俺に首をかしげながら、リエーフは美咲ちゃん達がいる方へと目をやった。
「あっ、美咲ちゃんそこにいるじゃないっすか。……え、あれ……烏野のエース……」
俺が隠れてた理由がそれで分かったのか、リエーフの顔色がみるみる青くなっていった。
俺と美咲ちゃん達とを交互に見やって、リエーフはどうしようかと困った顔をしている。
ここまで大きな声だったら、きっと美咲ちゃんも東峰も俺がここにいることに気が付いただろう。