第42章 シロツメクサ
*ヒロインside*
どのくらいそうしていたのだろう。
涙が止まるまで、旭先輩はずっと抱きしめ頭を撫でてくれていた。
誰かに寄りかかりたくて仕方なくて、先輩のシャツに思い切りしがみついて泣いた。
落ち着いてきてそこでようやく、恥ずかしさが込み上げてきた。
誰が見てるか分からないのに、軽率に抱きついたりして。
「っ、すみません」
言って顔を上げると、旭先輩の優しい目があった。
胸がきゅっと音を立てる。
そんな顔で見つめないで。
そう思う反面、それがとても嬉しくも思う。
「ズルいって分かってるのに......こんな時ばかり先輩の優しさに甘えて...ごめんなさい」
先輩から身を離そうとすると、旭先輩の腕がゆっくりと拘束を解いていった。
だけど離れてしまうのが名残惜しくて、先輩の胸に置いていた手だけはそのままにしておいた。
「ずるい? ずるくなんかないよ。むしろ今こそ頼る時なんじゃない? ......本当に黒崎は誰かに甘えるの苦手なんだな」
そう言って、旭先輩は困った顔で微笑んだ。
「ゴールデンウィークの合宿の時もそうだったよな。清水が体調不良で、武ちゃんもいなくてさ。黒崎1人で料理して怪我したことあったろ?
あの時、黒崎はギリギリまで人に頼ろうとしない子なんだな、って分かって。
……そんな黒崎だから、俺ほうっておけないんだ。自分から人に甘えたり出来ないんだよな。甘えていいよ、って言ってもらわないと、甘えられないんだよな」
そこまで言うと、旭先輩は少し寂しそうな顔になった。
「先輩とか後輩とか、マネとか部員とかそういうの全部抜きにしてさ。……東峰旭一個人として、頼ってくれたら、俺嬉しい。普段頼りない姿ばかり見せてるけど、黒崎が辛い時や困った時は力を貸したいと思ってるから」
どうしてそこまで親切にしてくれるんだろう。
旭先輩の優しさは底なしだなぁ、なんて思う。
こんなに心配してくれる先輩に対して、先ほどの涙の理由を話さないわけにはいかなかった。
話したところで、ただの愚痴になってしまいそうだったけれど。
それでも、気にかけてくれた先輩には、きちんと話しておくべきだと思った。
目を閉じて、深く息を吸って、ゆっくりと旭先輩と視線を合わせた。