第42章 シロツメクサ
*夜久side*
目の前の光景を、誰か嘘だと言ってほしかった。
誰かの仕掛けたドッキリならいいのに。
黒尾あたりが「ごめんやりすぎたか?」って憎らしい笑み浮かべて木の陰から飛び出てくればいいのに。
リエーフに、美咲ちゃんが電話片手に外へ行ったって聞いて後を追ってきてみれば。
なんなんだ、この光景は。
なんで、美咲ちゃんを抱きしめてるの、俺じゃないんだ。
俺じゃなくて、東峰なんだ。
『東峰、お前人に言っておいて自分はセクハラすんのかよ』って、冗談めいて言ってやろうと思うのに。
声が出ない。
体も動かない。
ひゅうっと吸い込む空気がいやに冷たくて、体まで冷え切ってしまいそうだ。
2人は伝えられてないだけで、想い合ってるのは分かっていたのに。
こんな残酷な光景をわざわざ俺に見せなくてもいいのに、神様ってやつは本当に意地悪だ。
俺の入る隙間なんて、1ミリもねぇみたいで涙が出そうだ。
辛いとき、そばで見守っていたのは俺だったのに。
いつの間にその場所を他のやつに奪われちまったんだろう。
なぁ。
俺はどうしたら良いんだ。
どうしたら、美咲ちゃんの心を手に入れられるんだよ。
美咲ちゃんの幸せを思うなら、ここで身を引かなきゃいけねぇんだろう。
誰だって好きなやつと想い合えるわけじゃねぇから、告白する前から2人が両想いなのってすげぇ事だと思う。
ここで間に割って入るヤツがいたら、誰だって「バカなやつだ」と指さすだろう。
バカなやつにはなりたくない。
なりたくないけど。
俺のこの気持ちは、いったいどこに持っていけばいいってんだ?
ぶつけることもできないまま、抱えていくしかねぇのか?
唇を噛み締めたまま、俺は2人をじっと見つめていた。