第41章 心模様
「あー、うん。でもこれは人に任せるのは心苦しいかな」
「?」
ジャージを洗うくらい、マネージャーに任せてもいいのに。
そうしない理由が思いつかなくて首を傾げていると、菅原先輩が「実はさ」と語り出した。
「このジャージ、旭のなんだけどさ。ちょっと曰く付きっていうか」
「曰く付き?」
「昨日の夜にな、旭のヤツ木兎達と一緒に幽霊探しして校内徘徊してたらしいんだよ」
菅原先輩の話にドキリとする。
旭先輩と昨夜のことは2人だけのヒミツにすると約束をしたし、武田先生も口外しないと言ってくれた。
だから私と旭先輩の間に起こったことは、菅原先輩は知らないはず。
だけどいつも私達の関係に敏感な菅原先輩だったら、何か知ってるんじゃないかって思ってしまう。
「木兎達も幽霊を間近で見たらしいんだ。そんで旭のジャージには、子供の手形がくっきり残っててさ。心霊現象じゃないかって、朝大騒ぎになって」
菅原先輩が洗いかけのジャージを見せてくれた。
だいぶ薄くなってはいたけれど、確かに裾の方に白い汚れがついている。
昨日の夜中、そんな汚れがあったかどうかはハッキリ見ていないから分からない。
暗かったし、何より他のことで頭がいっぱいだったし。
「ホントのところはどうなのか分かんないけど、あんまり旭が怖がってるからさ。俺がイタズラで手形をつけた、って事にしたんだよね。だからそんな“曰く付き”のモノを美咲ちゃんに洗濯してもらうのは忍びなくて」
「そうだったんですか……」
「うん。だから、これは俺に洗濯させて」
「分かりました。じゃあ、洗い終わったら干しておきますね」
「ありがとう。…それにしてもさ、ビックリじゃね? あの旭が木兎達に付き合って夜中の校内回るなんて。聞いたとき俺ホントびっくりしてさ」
あいつホントに怖いの苦手だからさ、と菅原先輩は笑う。
菅原先輩の視線はジャージに注がれたままだ。
丁寧に優しく擦り合わせて、少しずつ白い汚れが落ちていく。
「しかも女子マネの部屋のとこまで行ったとか言うしさ。旭にしちゃ大胆だなぁって思って」
「そう、ですね」
あまり迂闊なことは言えない。
余計なことを言うと、そこからボロが出そうな気がする。
相槌を打つだけにして、話が流れるのを待つことにしよう。
「まさか部屋覗きに行ったりしてないよなぁ、旭」