第41章 心模様
いつものように面倒そうに木兎の調子に合わせている風でもない。
本当にこの目で落ち武者の霊を目撃したのだと、赤葦の目は語っている。
「……超常現象を信じているワケではないのですが、さすがに実際目の当たりにしてしまうと……」
「じゃあこの手形も……?」
皆の視線が一斉に東峰のジャージへと集まる。
くっきりと存在している白い手形は、まるで幽霊の存在を強固に主張しているように見えた。
朝からゾクゾクと背筋が寒くなるのを感じて、皆身震いする。
「……ん……あれ、どうしたの、みんな……」
しん、と静まりかえってしまった部屋の中で、目を覚ました東峰の呟きはよく聞こえた。
自分に集まっている視線の数がやけに多いことに東峰は気が付いた。
烏野だけではない。音駒、梟谷の部員も数人混じっている。
「大丈夫か、旭。気分は?」
「大丈夫。…俺、気失ってた……?」
こくんと菅原が頷く。
すると東峰はまたゆっくりと目を瞑った。
「ごめん、旭! まさかそこまで怖がると思ってなくて。あの手形、俺のイタズラ!」
場にそぐわないほど明るく大きな声で菅原がそう言うと、東峰はちらりと菅原の顔を見て、大きく溜息をついた。
「勘弁してくれよ、スガ」
「ホントごめん!! やり過ぎたわ」
「ホントだよ~。でもイタズラで良かった……」
横になったまま東峰が力なく笑う。
それに合わせて東峰を励ますかのように、集まった面々も大袈裟に声を上げ始めた。
「なんだよ、結局菅原のイタズラかよ」
「人騒がせなー」
口ではそう言うものの、東峰以外、本気で菅原を責めている者はいなかった。
東峰の精神衛生上、“菅原のイタズラ”にしておいた方が良い。
そんな菅原の気遣いに、周囲の人間ものっかった形だった。
「お前らまだ部屋にいたのか。急げ! 飯食いそびれるぞ」
先に部屋を出ていた澤村が顔を出して部屋の中の集団に声をかける。
“飯”の言葉に、弾かれるように皆、食堂へと向かいだした。
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「菅原先輩? 何してるんですか?」
午前の練習の休憩中、水場で菅原先輩と出会った。
先輩の手には黒いジャージ。
蛇口から勢いよく出た水が、しぶきをあげてあたりに飛び散っている。
「おー美咲ちゃん、おつかれー。今ちょっと洗濯してんだ」
「洗濯だったらやりますよ、私」