第41章 心模様
菅原の落ち着き払った態度。それが黒尾にはどうも引っかかっていた。
「誰かのイタズラじゃねぇのか」
誰か、と口にしつつも、黒尾の目は菅原を疑わしいといわんばかりの目をしていた。
それに気付いたのか、菅原は半笑いで答える。
「俺じゃないよ? 第一、こんなイタズラしても俺に何の得もないじゃん」
「それはまぁ、確かに」
菅原が東峰をからかっている姿は何度か見かけている。
けれど、東峰が恐怖から失神することがあると知っている菅原なら、どこまでなら大丈夫か、そういう線引きはちゃんと分かっていそうだ。
わざわざチームメイトを失神させるような真似はしないだろう。
「じゃあマジモンの心霊現象?」
そう言いながらも、夜久の顔は半信半疑だ。
横にいる黒尾も同じだった。
世の中には説明のつかない事だってあるのかもしれないが、ただ白い手形があるというだけでは、“幽霊”の存在を信じるところまではいかなかった。
「おはようございます。すみません、東峰さんは……」
烏野の部屋に、また来訪者が現れた。
先輩である木兎を連れて部屋に顔を出したのは、梟谷の赤葦だった。
「東峰くん、どーした?!」
部屋の中央で横になっている東峰と、彼を取り囲むようにして集まっている黒尾達を見て、木兎が驚きの声を上げる。
赤葦はいつものように平静な顔つきだったが、少しだけ焦りの色が見えた。
「何?? 東峰くん何かあったわけ??」
「木兎、お前の好きな幽霊騒ぎだよ。見てみろ」
先ほど菅原がやったように、黒尾も東峰のジャージの裾を引っ張って、木兎達に見せた。
いまだくっきりと残っている白い手形を見た瞬間、木兎と赤葦の顔から血の気が引いていった。
「あかーし」
「……本格的にお祓いとか頼んだ方がいいんですかね……」
2人の反応に、黒尾達の顔がさきほどより真剣味を帯びていく。
赤葦は、倒れている人間を前にして冗談を言うような性格ではない。
他校とはいえ、そのくらいのことは黒尾と夜久も把握していた。
「東峰さん、気を失っているんですか」
「うん。ジャージの手形見た途端、バッタリ。んで、うわごとみたいに“ユーレーが”ってぶつぶつ言ってた」
菅原の言葉に、木兎が項垂れる。
それを横目で確認してから、赤葦は菅原に頭を下げた。