第41章 心模様
合宿5日目の朝は、烏野バレー部員達の大騒ぎで幕を開けた。
隣の部屋の音駒の面々が、騒ぎを聞きつけて烏野の部屋を覗きにやって来た。
「朝から何をそんなに騒いでんだ、おたくら」
音駒の主将、黒尾鉄朗が騒ぎの原因を突き止めようとドアから顔だけ入れて、烏野の部屋の中の様子をうかがった。
部屋の真ん中で、3年生エースの東峰がぐったりと倒れている。
倒れ込んだ大柄な東峰を同じく3年生の菅原と2年生の部員がなんとか支えている様子だ。
「っ、おい、大丈夫か?!」
「何があった?!」
黒尾がドアを乱暴に開けて部屋に入るのと同時に、横から夜久も一緒に部屋に飛び込んだ。
毎日バレー漬けの、体力には自信があるはずの東峰が倒れ込むなんて尋常じゃ無い。
朝から熱中症ってのは考えにくいが体調を崩したことは確かだろう。
黒尾も夜久もそんなことを思いながら、東峰の元へ駆け寄った。
「あ、そんな深刻なヤツじゃ無いから大丈夫だと思う。ごめん、大声出して」
「いや、深刻だろ?! 東峰意識ねぇじゃん」
菅原の言葉に、黒尾も夜久も驚いた。
チームメイトが意識を失っているというのに、菅原があまりにも冷静すぎたからだ。
「前もあったんだ。恐怖心マックスになると気失うんだ、こいつ」
片付け途中だった布団に東峰をそっと寝かせながら、菅原は黒尾と夜久の2人に説明した。
この合宿に入ってすぐ、烏野のマネージャーが倒れたのは記憶に新しい。
だから音駒の2人が人が倒れることに対して過敏になっているところはあった。
「恐怖心って……一体何をそんなに怖がったっていうんだ」
「…これ見てよ」
黒尾の問いに対して、菅原は東峰のジャージの裾を引っ張って見せた。
真っ黒なジャージに白い小さな手形がくっきりと浮かび上がっている。
明らかに子供サイズの手形に、黒尾も夜久も2人顔を見合わせては妙な顔をした。
「え、なんだコレ」
「手形? えらく小さいな」
「どうもそれ、“幽霊”のものらしいんだよ」
「幽霊?」
そんな馬鹿な、と黒尾達は口を開きそうになった。
しかしそこで、はた、と木兎が“ユーレーを見た”と騒いでいたことを思い出した。
昨日も一昨日も朝から、落ち武者が、子供の霊が、とわめいていた。
「確かにここ最近木兎が騒いでたけど。まさかこれが幽霊の仕業だってのか?」
疑わしげに黒尾が菅原の目を見る。