第40章 落ち武者は薄の穂にも怖ず
「もーたまにはノってきてよー赤葦」
「ここまで付き合ってるだけで、充分ノってると思います」
「んまぁ、そうかもしれねーけど…」
「しっ。木兎さん静かに」
階下から上がってきた足音が、赤葦達のいる階に到着したようだ。
足音に耳を凝らす。
カツ、カツ、と相変わらず規則的な音は、どうも赤葦達のいる教室とは逆の方に進んでいったらしい。
少しずつ遠ざかる音に、張り詰めていた緊張がわずかだが緩んだ。
「どうします木兎さん。今のうちに部屋に戻りますか」
「うーん…でもそれじゃあ東峰くんを見捨てていくことになるからなぁ…」
「そうですね…」
見回りがこの階から降りてから、部屋に戻る方が安全かもしれない。
東峰を見捨ててまで急いで部屋を出る必要もなさそうだ。
木兎と赤葦は、見回りの足音に再度耳を凝らした。
この階の端から端まで一度確認すれば、降りていくに違いない。
木兎達は時間が過ぎるのをただじっと待っていた。
ガタン!!
大きな音がして、2人とも思わず体がビクリと反応した。
ポルターガイストかと木兎がそわそわしている。
その横で赤葦は、東峰が見回りに見つかったのではないかと危惧していた。
「…ちょっと様子を見てきます」
隠れていた場所から教室の入り口までそっと赤葦は近づいた。
入り口の扉のガラスになっている部分から外の様子をうかがう。
暗い廊下にぽつんと明かりが見える。
明かりはじっとしたまま動きを見せていないように見えた。
けれどドア越しではよく分からない。
なるだけ音を立てないよう細心の注意を払って、赤葦は引き戸になっているドアを開けた。
隙間からそっと顔を出して、廊下に目を凝らす。
廊下に小さな人影が見える。
あれは確かーー
「烏野のセンセーじゃん」
「木兎さん重いです」
廊下を覗きこんだ赤葦に乗っかるようにして、木兎も廊下に顔を出している。
「なんか教室覗いてねぇ?」
「あっ、入っていきましたよ」
木兎達が観察していると、烏野の教師は空き教室の中へ入っていった。
しばらく見ていたが、教室から出てくる気配が無い。
「木兎さん、東峰さんあそこで見つかっちゃったんじゃないですか」
「かもしれねぇな」
「……俺達も行きましょうか」
「東峰くん1人説教されるの可哀想だもんな」